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宇宙のロマン、それは時間依存シュレディンガー方程式(その2)
前回で「その1」ですので今回で「その2」です。次回はきっとその3になると予想されます。
お題は、この式について、です。
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時間に依存するシュレディンガー方程式です。
これには双子さんがいらっしゃいます。「時間に依存しないシュレディンガー方程式」といいます⇩
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量子力学を習うとき、必ずこの双子きょうだいについて、あれこれ学ばされます。無限井戸がどうのポテンシャルがこうのと、訳がわからないまま「とにかく式を立てて解けるようになれ」と迫られます。しかし…
わかんないよ、そんなの!
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…と頭を掻きむしりたくなった経験が、物理系や工学系の学生さんにはある(あった)のではないでしょうか。
謎の美女登場
そこで私が、わかるように説明していきます。
エネルギー保存則は中学理科で習っていると思います。
厳密には力学的エネルギー保存則といいます。
「エネルギー保存則」と「力学的エネルギー保存則」の違いは何か? 前者には熱が絡みます。
エネルギーの一部が熱となって散る…しかし散ったぶんも含めて全体のエネルギーは保たれるというのが「エネルギー保存則」。高校物理で習う内容です。
中学理科で習うのは「力学的エネルギー保存則」といって、熱のことは高校で習うから後に回してまえという法則です。いいかげんすぎる説明すなってか? しかしそうなのだからしかたがない。
ジェットコースター、それも摩擦と空気抵抗とブレーキ熱を省いたジェットコースターを思い浮かべれば、感じはつかめる(または思い出せる)と思います。
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位置エネルギーが運動エネルギーに変わってどうのこうのという、あの話ですよ。あれが「力学的エネルギー保存則」。
ここより大学の力学へ
ここまではいいですね? よし。中学理科から、これより一気に大学物理へジャンプしますジャンプ、少年ジャンプ。
力学的エネルギー保存則について、大学物理では「ハミルトニアン」で演算します。
ハミルトンという、神童上がりの天才数学者が、半ば戯れに見つけだしたアイディアを、後世の学者たちが体系に育て上げたものです。ハミルトン先生にちなんで「ハミルトン関数」と呼んだり、もっとかっこよく「ハミルトニアン」と呼んだりしています。
$${全エネルギー=運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー}$$
中学理科で「運動エネルギー+位置エネルギー=一定 (つまり保存する)」と習ったのと、よく似ています。似ているというか基本は同じです。
違うのは、こういう風に関数として示されることです。
$${H(p, q, t)=T+V}$$
物体の運動量 $${p}$$、位置 $${q}$$、時間 $${t}$$、運動エネルギー $${T}$$、ポテンシャルエネルギー $${V}$$ を因子とする、関数です。
この関数、説明が少々難しいので、お話仕立てで説明します。
♪さあゆくんだそのかおをあげて
こんなのをご覧になったことが皆さんあると思います。
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なんで蒸気機関車が宇宙走っとんねん!と思われるでしょうが、これは本当は宇宙船です。二度と地球には戻らない乗客のために、古式ゆかしき鉄道車両風の宇宙船を用意しているのです。
線路のない空間を、まるで線路があるかのようにカーヴしています。
これはですね、私の想像ですがハミルトニアンの考え方を応用しています。
宇宙空間は、ご承知のように真空、からっぽ、何にもない無限の空洞です。本当は放射線やらなんやらがいっぱいですが、何もないからっぽ空間とここでは考えます。
しかし銀河鉄道管理局は、星から星にかけて、細長い、チューブ状の空間を張り巡らしています。
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宇宙の東名高速とでもいうのかな、そこには気圧があって、蒸気機関車のばい煙がたなびいて、列車の窓を開けると風が入ってくる、そういう特殊空間になっています。
どういう仕掛けでそうなっているのかはわかりませんが、とにかくそうなっています。
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この機関車さん、見た目は昭和日本の高速蒸気機関車C62ですが…
内部は違います。人工知能のマシンのメカニズムがびっしりと AI 電子頭脳しています。
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「つまり機関車そのものが運転士で機関士なんですよ鉄郎さん。絶対にミスを犯さない、宇宙最高の頭脳にして、最高性能の鉄道型宇宙船」
それはすごいや車掌さん。そうか、そういう風に回っているのか銀河鉄道って…
「そしてこの機関車、銀河鉄道管理局が張り巡らした特殊空間から逸れない様、列車をけん引しています」
うーん、もし外れちゃったら、どうなるの車掌さん?
「あはは、真空に列車がはみでてしまいますね。つまり蒸気機関車としてはそこで絶命です。私たちも呼吸できなくなって、それでおだぶつですよ」
うわーそれは大変だ。機関車さんはどんなときも、定められた軌道からはみでないよう、常に計算しながら走っていかないといけないってことだね。
ファンタジーはここまで
ふう。ここでハミルトン関数(つまりハミルトニアン)に話を戻します。
$${H(p, q, t)=T+V}$$
この数式、銀河超特急999(スリーナイン)号の機関車さんの頭脳そのものです。
$${p, q, t}$$ の三つを、三次元空間の座標と見立ててみてください。銀河鉄道の軌道上を走っているあいだは $${H(p, q, t)}$$ は値が 10 とか 100 とか、値はなんでもいいんだけどとにかく百点満点を保っていて、しかし軌道から逸れだすと 100 がだんだん減って 90 になったり、最悪の場合は 0 つまり真空の宇宙空間に完全にはみ出してしまうわけです。
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$${H(p, q, t)}$$ は、メーターが三つ並んでいるカーナビ と思えばいいです。
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超特急999号が、宇宙のどこを走っているのかはいちいち表示しないけれど、もし軌道から逸れだすと、このカーナビは警告音を出します。「今、値ガ 100 カラ 98 ニ下ガリマシタ」「79 マデ下ガリマシタ」「今、81マデ回復シマシタ」
それで操縦かんをあれこれ操作すると、やがて「94 マデ上ガリマシタ」「100 ニ戻リマシタ」と告げてくれます。
つまり結果的に、進むべき軌道を進むことになるわけです。
2→3→4➡3
中学、高校で習ったことを、順に振り返ってみましょう。
中学理科では、二次元で考えます。ジェットコースターの例でいえば、時間 $${t}$$ と絡むのは位置 $${x}$$ だったり高さ $${h}$$ だったりと、助変数はたいてい二つでした。
高校物理は三次元です。時間 $${t}$$ と 位置 $${x, y}$$ のペア、つまり助変数はたいてい三つです。
大学物理では時間 $${t}$$ と 位置 $${x, y, z}$$ のペア、つまり助変数は四つ…と思ったら途中で三つになっていきます。運動量 $${p}$$、位置 $${q}$$、時間 $${t}$$ のトリオで回りだします。
四つのものがどうして三つで済んでしまうのか?
そこがハミルトン卿の大発明でした。厳密にはその後継者たちの手柄ですが、アイディア発案者は彼ということで、ハミルトン力学と敬称されています。
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力学的エネルギー保存則が、この天才的アイルランド人(の後継者たち)の工夫によって、位置と運動量と時間のトリオによって語れるようになりました。
そして、エネルギーと運動量が、それまで考えられていたより、もっと深い関係があると、科学者たちは気づいていったのでした。
つづくわよ鉄郎・・・
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