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解析力学は解析学をフライングさせた
ふとまた読みたくなって、読み返すたびに新しい気づきがある本があるという方、少なくないと思います。
私にとってのそういう本の一冊が、これ。
数式どっさり、しかも現代的な力学ではなく、何世紀も前のヨーロッパの、各時代の最高の英知による、当時の前衛いいかえれば未成熟で未整理な思索にとことん沿っての力学の数式がこれでもかーと並ぶので、追うのが大変。
もう少し整理した書き方ができたのではないかなって、編集者寄りの目線で苦言を付けたくもなりますね。
著者の山本先生は、いうまでもなく物理学の方です。しかしこの本は、むしろ解析学史の一面を色濃く感じさせます。
ラグランジュ解析力学は1788年の著作『Mécanique analytique』(解析力学)で体系化されました。しかし山本も指摘するように、演算子の並びの前後を入れ替えて計算することの厳密な正統性をいちいち論じなかったりと、解析学(つまり数学)の視点からは実におおらか、大雑把なものでした。
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そのあたりの厳密な議論は、1821年つまり次の世紀に入ってからでした。数学者コーシーによる『Cours d'Analyse de l’École Royale Polytechnique; I.re Partie. Analyse algébrique』(フランス王立工科大学における解析教程 第一部 代数的解析学)で、無限小についてじっくり論じたのは画期でした。
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後にそこに穴があることが判明して、1860年代にワイエルシュトラスがε-δ論法(これ自体はコーシーがすでに使っていた)を厳密化し、無限小や無限大といった概念を一切使わないで収束や連続について語れるようになったのでした。
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力学は幾何的な思索によって法則化がなされ、やがて解析的思索によって整えられ、そして代数的思索によって現代でいうところの古典力学に進化した…と自分は理解しています。少なくとも山本本はそういう史観で著述されています。
これを数学史の視点より眺めなおしたら、どんな光景が見えてくるのだろう――
そんなことを考えます。
つづくよ。