教科書の挿画『少年の日の思い出』-メイキング
中学校国語教科書収録の小説『少年の日の思い出』(著:ヘルマン・ヘッセ)の挿画を担当いたしました。
イラストを制作したのは2018年末ごろです。
(教科書は2021年の4月に使用開始予定)
ヘルマン・ヘッセ著 『少年の日の思い出』
罵倒されるより胸を抉るセリフが、多くの中学生の心にトラウマを刻んだ…らしい。60年以上も教科書に掲載され続け、多くの日本人が初めて読むヘッセ作品として認知されている本作。
言葉にし難い重苦しさ、妬ましさ、恥ずかしさ情けなさ、居た堪れなさ…
目を背けたくなるけれど、誰しも人生のどこかで一度は遭遇するだろう苦い気持ちの思い出話。
1:打ち合わせ(約1週間)
教科書の挿絵のお仕事は初めてだったので、イラストの内容以外の確認もいろいろしました(紙だけでなくデジタル教科書へも使用されます)。
タッチのイメージとして上げられたのは↓
たしかに、『少年の日の思い出』は仄暗く柔らかな質感が馴染みそうな世界観でした。『本を守ろうとする猫の話』からカラフルさを削ぎ落とし、寂寞感を強めたかんじかな〜とイメージ。
なるべく全体のバランスを見ながら制作したいのと、別件のお仕事との兼ね合いで少しお時間をいただき、最初のラフは4点まとめての提出とさせていただきました。
2:ラフイラスト(約1ヶ月)
事前にレイアウトイメージをいただき、文章とイラストの関係を意識しながら制作しました。
カット1:書斎の机の上でランプの光を受けている厚紙の箱
(箱は蓋が閉まった状態。ランプは指定の資料あり)
カット2:古いボール紙の箱に数匹の蝶が留められている
(真上でなく少し引いたところから箱の中の蝶が見える様子。蝶はあまり細かく描かない)
カット3:階段を上った先のエーミールの部屋の前でたたずむ「僕」
(下からのアングルで、階段の上の部屋の前にいる僕の後ろ姿)
カット4:暗い部屋の中で、持っている箱を覗き込む「僕」
(うつむいていて細かい表情は見えない)
3:フィードバック(約4日)
先輩イラストレーターさんから「教科書のお仕事は指示が細かく、修正が多くなるのはある程度覚悟しておいたほうがいいよ」とうかがっていました。
しかし今回は編集さんの指示がわかりやすく丁寧だったので、安心して進行できました。
4:修正ラフ(約5日)
5:フィードバック(即日)
6:完成(約10日)
胸が軋むような息苦しさを醸し出しながら、けれど絵としては美しく見えるように…と意識しました。
とても嬉しいお言葉をいただきました。ありがとうございました!
鱗粉は、暗く物悲しいだけでなくどこかあたたかみも感じられるように、
ドラマチックな印象で物語にひっぱりこめるように…と意識していたので、成功していたら嬉しいです。
教科書の挿絵のお仕事はこれが初めてでしたが、自分のちょっとダークなところもある作風をこんなふうに生かせたことが新鮮で楽しかったです。
(今まで経験した学参書系のお仕事では、もっと明るく健全なタッチでオーダーされていたので)
『少年の日の思い出』は私が学んでいた教科書には載っていなかったのですが、「大人になっても忘れられない話」と言われていることは知っていました。誰しも似たような経験はあるだろうし、思春期に出会っていたら刺さっていたでしょうね。
優しいばかりでなく、辛い、居た堪れない物語が「教科書」に載っていることにはとても大きな意味があると思います。こういうことを物語として仮想体験していると、現実で「それ」と直面したとき自分が何に動揺していて何に傷ついているのか気づくきっかけになることもありますし。
(こうした概念を知らない、言葉にし難い気持ちを言い表す語彙が無いと、自分の心を把握するのも難しかったりするのですよね。さらに他人を慮るのはもっと難しい…)
また、この短編小説が文学に親しむきっかけとなった人も多いそうで。
この挿絵が、少年少女たちが物語に入り込む手助けになると嬉しいです。
ご依頼のきっかけとなった
『本を守ろうとする猫の話』の記事はこちら↓