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【韓国論文】韓国語と日本語でキャラクターの印象が変わるジェンダー表現


1.わざわざ女性らしく喋らせる必要ある?

日本語翻訳をする時に悩ましい問題として、女性キャラクターへ原作の言語にない女性表現を使わせるかどうかがあります。
現実的でない‘~わ’などの語尾が、キャラクターの印象を変えてしまうのではないかという批判です。

今回は、日韓でベストセラー作品になった「82年生まれ、キムジヨン」における女性キャラクターのジェンダー表現に注目して分析してみた論文を紹介します。

共有する論文:イ・ユア「小説『82年生まれ、キムジヨン』の翻訳に表れたジェンダー表現の様相に対した考察ー女性文末表現を中心に」


2.女性らしさの表現

この論文では、フェミニズム小説に分類され、韓国小説としては日本で今までに無かったほどの共感と人気を得た「82年生まれ、キムジヨン」の原作と翻訳本の対照的に比べることを通して、ジェンダー表現や女性文末表現が登場人物をどのように特徴づけているのかに焦点を当てています。
また作中では、ジェンダー表現がどんな状況で使用されているのかについても注目し、日本語翻訳戦略について考察することを目的にしています。

研究方法は、女性文末表現を定義した後、女性キャラクターの発話場面に見られる女性文末表現が使われる様子を見ていきます。
これに加えて、時代やエピソード、主要な登場人物別に考察しています。

女性語としてとして知られている終助詞とその作中全体の登場回数は以下の通りです。

①‘よ’ 51回
主人公と登場人物たちのジェンダー意識を見せようとする翻訳者の意図が反映されたと考えられる。

②‘ね’ 42回
女性で多く使われる表現

③‘のよ’ 11回
主に中年以上の女性が使うとされるが、作中では比較的若い女性に使われている

④‘の’ 9回
主に女性が語調を柔らかくさせる時に使われる

⑤もの・もん 9回
主に若い女性や子どもが使う。

⑥‘わ’ 3回
ジヨン、ウニョン、ミスクに使われていることが見られる

pp.158-167

人物別に分析した結果は次の通りです。

ジヨンの場合
幼年期より、成人になった以降の就職期間と妊娠育児を経る期間のほうが、遥かに‘よ’の使用が増加している。そのくらい自我の成長と女性差別に対した経験が増えた結果だと考えられる。

ミスクの場合
ミスクは平凡な家庭の主婦だが、翻訳者の言う通り、生命力が強い母、家庭に忠実ながらも娘の未来を考える母としての役割を果たす母として描写されている。このような彼女の‘よ’の使用は、経済力と一緒に自信を持ちながら目立ってきたと見ることができ、母として、男女区分がない‘だよ’の使用が特徴的だといえる。

pp.167-174

最後に論文の筆者は、今回の研究をひとつの作品しか分析できていない断片的研究だとし、より多くの日韓のフェミニズム小説の比較分析を今後の課題としました。


3.このキャラクターは男?女?

韓国語は、文章を見ただけでは男性が話しているのか、女性が話しているのか把握することができません。
そのため、日本語で女性らしい話し方をする人物は翻訳者のキャラクター解釈が含まれているといえます。
反対に、日本語は男性らしい話し方もあります。
つまり、日本語で公式的な場でもないのに、男女区別のない話し方をする人物はジェンダー表現に対して何か主張があるというふうに読み取ることもできると思います。
このように、日本語は話している人のジェンダーが分かることが重要視されているように感じますが、韓国語に慣れると話者の男女が分からなくても困ることは特にありません。
日本語の時には非現実的なジェンダー表現が、読者にとって必要なのか重要なのか、私にはよくわかりませんが、このような言語文化の背景についてもう少し調べてみたいところです。

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論文

イ・ユア「小説『82年生まれ、キムジヨン』の翻訳に表れたジェンダー表現の様相に対した考察ー女性文末表現を中心に」日本語文学88号、日本語文化会、2020年、pp. 149-178

이유아 「소설 『82년생 김지영』의 번역에서 나타난 젠더 표현 양상에 대한 고찰 - 여성문말표현을 중심으로」『일본어문학』 no.88, 일본어문학회 2020 pp. 149-178

日韓のジェンダー表現を分析した論文の記事はこちら↓


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