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【読書レポ 論文編】意外と日本人は気づいていないかも?「かわいい≠Kawaii」。日本のカワイイ文化に対する欧米勢の理解

1.各国へ輸出された魔法のことば

かわいいがもつニュアンスは、英語では対応する単語が無い。だから「かわいい」は、「kawaii」なのです。

このような説は、インターネットの普及と外務省のカワイイ大使の活動などによって、今では一般に認知されたかと思います。

しかしながら、よくよく観察すると、「かわいい→Kawaii」と必ずしも翻訳できるわけではなく、日本人がイメージする「かわいい」の一部だけが「Kawaii」とブームになっているのではないか、と指摘する論文を共有します。

共有する論文:『かわいい論試論Ⅱ』

2.日本人の「かわいい」感性と海外での「かわいい」意識のズレ

西村は、「かわいい」は商業的価値があることからその表象のみが世界へ広がっていると指摘します。

今のところアメリカではハローキティやきゃりーぱみゅぱみゅらの表象のみが受け入れられ、その本質である「かわいい」という感性、概念はそこに収束せず、アメリカの社会事情に合わせて多層的に捉えられている。しかしそんな七面倒くさいことは言わず「かわいいものはかわいい」と「理由無きかわいい」を受け入れる若者や海外セレブ、メディアなども現れてきている。「かわいい」がKawaiiやCawaiiなどそのまま日本語で表現されCuteやPrettyとは一線を画されているのはその証であろう。p.50

日本人がイメージする「かわいい」は、子どものままでいることを認める、成長に対する拒否の姿勢が見られたり、未成熟なものを愛でる感性が含まれます。しかしながら欧米の論者が記す「かわいい」には、このような日本独特の感性までグローバル化していないことがうかがえます。

たとえば、アメリカの研究者ヤノが記したハローキティ論について以下のように記述します。

ヤノ氏はハローキティの世界快進撃をPink Globalization (ピンクのグローバリゼーション)という造語までつくり驚きを交えた称賛をもって伝えているが、彼女は自身の文章中それを「かわいい」ではなくCuteおよびCool Japanという言葉を用いて説明している。Cuteはたしかに子供っぽいかわいさを表す言葉であるが、その語源acuteに由来し、それが鋭い、鋭敏ななどの意味を示すことから、cuteには“利口な”や“抜け目のない”、“はしっこい”などの意味が含まれ、天然でどこか抜けている感じをもつ日本の「かわいい」とはズレがある。また、Coolはいっそう「かわいい」とはかけ離れている。 p.47

このようにハローキティの表象から、アメリカの社会事情に合わせて様々な視点から捉えれています。キティちゃんに関する代表的な議論は、口がないことやウインクをすることから主体性のなさが表現されていると指摘があります。またこの自己の主体性のなさは、アジア人女性への偏見をイメージさせると理解され、フェミニズム界では嫌われています。ヤノの著書では、このようなキティ叩きについても記述されます。

このような現状を踏まえて西村は、以下のように結論つけます。

ここで本論の論点「『かわいい』は21世紀の日本の美学となりうるか」、「そしてそれは果たして世界の認めるところになるのか」に戻ると、「かわいい」は未だ美学であるとの確証は筆者は持てずにいるが、21世紀なって日本を拠点に世界に発信された新しい概念であるということはできる。p.50


3.様々な分野で議論を巻き起こすほどに多様な解釈ができる「kawaii」の表象

このように日本語の「かわいい」と海外の「Kawaii、(カワイイ)」はズレがあるという指摘は、他の論文でも散見します。Kawaii、(カワイイ)だと、ポップで華やかで目を惹くようなデザイン図像を思い浮かべます。またキティちゃんが代表するように、キャラクターやファッション分野で使われると感じます。

その土地の文化背景があるため、なかなか感性まで輸出されることは難しいと思います。しかしながら、驚きと称賛をもって受け入れられている現状があることが、今回の論文で分かりました。「カワイイ」の表象は、日本社会ではなく、その国の社会事情にあわせて議論を巻き起こしていることから、誰でも受け入れられる可能性をもったフラットなものなのかもしれません。

ここまで読んだら、スキ♡をお願いします。

参考・参照文献:西村美香 「かわいい論試論Ⅱ:かわいい論の射程」『デザイン理論』73号 意匠学会、2018年、pp.43-52


ちなみに論文中に登場したヤノ氏は、2014年に話題になった事件「キティちゃんは猫じゃない」と『ロサンゼルス・タイムズ』に報告した人物です。


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なゆた@日韓の論文を読む人
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