「傾聴」は解決に結びつく最短の道
起業支援に取り組む中小企業診断士の集まり『スタラボ』
今月の座談会は、プロのカウンセラー宮本剛志さまの「相談業務に活かせる傾聴力」です。
実は、宮本さんは自分が産業カウンセラーの養成講座に通ったときの実技指導者。当時の「縁」が続き、座談会に登壇いただけたことに感謝です。
宮本剛志(ミヤモトツヨシ)
株式会社メンタル・リンク代表取締役
シニア産業カウンセラー
ハラスメント対策シニアコンサルタント
企業(ベネッセグループ)にて事業所、相談室等の責任者を経験。その後、カウンセラー・研修講師として独立。一般社団法人日本産業カウンセラー協会東京相談室元室長。現在は、具体的な事例をもとに、心理的アプローチによって、チームの中で生かせる点を重視した研修を行っている。
研修・講演は年間約155回、カウンセリングは年間のべ275人
起業支援に大切なのは、まずは相手の話を聴くこと。
これが意外に難しい。
頭ではわかっていても、診断士の職業がら、脊髄反射的に「課題解決モード」になりやすい。
相手の気持ちを受け止めるよりも先に「それはですね--」と、いきなり要因分析やアドバイスに入ってしまう(自戒。。)
一見すると、回り道のようにみえる「聴く」姿勢。
でも、宮本さんの講義を聞くと「聴くことは、クライエントの課題解決に結びつく最短の道」という言葉に納得します。
以下、宮本さんの座談会の概要です。
1.自分の日頃のきき方のクセを知る
「人はそれぞれにきき方のクセがある」
そのクセが「良い悪い」というよりも、まずは自分が日頃「どんなきき方をしているか」を理解しておくことが大切。
事例で考えてみると
【事例】会社員のAさん(30歳代)からの相談
「最近、なんだか自分には会社勤めが向いていない気がします。会社を辞めて独立でもしようと思っているのですが・・・」
こんな相談を受けたときに、最初にどのような言葉をかけるか。
その言葉によって、自分のきき方のクセが見えてくる。
例えば「なんで」「なぜ」と原因追及の言葉が先にくれば「診断的態度」、「大丈夫」「心配しないで」といった励ましの言葉であれば「支持的態度」で関わっている。
実は「理解的態度」で聴くことが大事とわかっていても、日常のとっさに出てくる言葉には、自分のきき方のクセが表れていることが多い。
それぞれのきき方の態度も、話を聴く場面によっては必要だが、まずは相手の話を受け止める姿勢が大切。
きき方の5つの態度 (E.Hポーター)
①評価的態度
②解釈的態度
③診断的態度
④支持的態度
⑤理解的態度
2.相談業務における傾聴の必須ポイント
「傾聴」とは、自分の価値観を外し、相手に寄り添い、相手の感情・欲求・葛藤など内面の世界を理解しようとする聴き方。
同感とは違う。
例えば、Aさんの意見や行動に、自分は同意できないけれど「Aさんはそう思っている」と相手の気持ちを理解して聴くこと。自分の価値観で話を聴くのではなく、相手の価値観を理解しようと聴くのが傾聴。
傾聴の効果で、特に大きいのが「信頼関係ができること」と「解決に結びつくこと」
相手の話をじっくり共感的に聴くことで、信頼関係が芽生え、相手が安心して自分の内面を見つめ、語ることができる場になる。
結果、相手が本音を語ってくれることで、相談が前に進み、相手が自ら気づくことで、課題の解決に結びついていく。
3.傾聴の実践(体感)
実際に「傾聴」を体感してみよう。
まずは、聴き手は目を合わせず、うなずきもしない聴き方で聴く。
3分という短い時間でも、話し手は、聞いてもらえない姿勢に不安や心配になってくる。
次に、聴き手は傾聴の姿勢で聴く。今回は、傾聴の技法のなかでも、次の3つを意識する。
①かかわり行動(表情・態度・声のトーン等)
②簡単応答(相づち・うなずき等)
③感情への応答(相手の気持ちを受け止める)
話し手は、傾聴して聴いてもらえることで「話してもいいんだ」という安心感が生まれ、自分の言葉で話せるようになってくる。
傾聴技法のなかでは、特に感情への応答を意識できるとよい。
話し手の感情を受け止め、伝え返すことや、話し手の気持ちを明確化することで、話し手自身が、今の自分の気持ちに気づくことにつながる。
座談会を終えて
ロールプレイでは、限られた時間のなかでも参加者が傾聴のパワフルさを体感。傾聴して話を聴いてもらったときの心地よさを感じていました。
今から8年前。経営者から話がしっかり聞けず、支援者としての壁にぶつかっていたとき。自分がこの「傾聴」に助けられました。そのときに宮本さんから学んだ傾聴の姿勢や技法などは、今でも自分の支援の軸になっています。
今回は「傾聴」のエッセンスを1時間でぎゅっとまとめ、最後まで参加者の質疑応答に真摯に答えていただきました。宮本さんの質疑応答の対応をみているだけでも、改めて「聴く力」の力強さを感じました。
宮本さま、ありがとうございました。