あの世からの「お迎え」は609人いると推測した
あの世からやってくる「お迎え」はどんな存在で、何人いるのか?
定食屋さんの湯呑みに書かれていた「長寿の秘訣」をヒントにして推測してみた。
何故そんなことを考えたのか
夜は居酒屋、昼は定食屋。そんなお店で昼ご飯を食べた日の出来事。
ここの名物は焼き魚定食。
店に入るなり、炭火の熱気とお魚の香りが出迎えてくれる。
前払いで注文したのち、着席。
普段なら無条件でスマホに手をやる時間だが、その日はこんな湯呑みが目にとまった。
「長寿の心得 人生は六十から」
なにやら格言が書かれていそうである。
はたして、「長寿の心得」とはどんなものだろうか。
私の予想としては、
・好きなことをしよう
・よく笑おう
・体を動かそう
・野菜を食べよう
・酒も適度に飲もう
・旅に出たりして新しい刺激を得よう
こんなところである。
ひとしきり考えたうえで、湯呑みをちょっとだけ回してみると、
「七十歳でお迎えの来たときは」
飛躍ッッ!!
想定していた現実的なアドバイスが全て吹き飛んでしまった。もう「お迎え」が来ちゃってるじゃないか。
どんなに心の広い生命保険にも入れなさそうな状況だというのに、そこからどうするというのか?
東大合格を目指す受験生が買った参考書に、「二次試験必勝法!」ではなく「落ちた時のショックに備えて、EDMを聴きながらノリノリで合格発表に行こう!」などと書いてあったら、きっと同じ心境になるだろう。
あまりに衝撃的なので、続きを読む前に「お迎え」とはどんな存在か、少しだけイメージしておきたい。
「お迎え」ってなんだ?
「あの世からのお迎え」と聞いて、私がとっさに連想したのは、
名作アニメ「フランダースの犬」である。
その連想速度たるや、「ひつまぶし」から「暇つぶし」を思い浮かべるスピードにも迫るほどだった。
ラストシーンで、ルーベンスの絵を前にして息絶えたネロとパトラッシュ。彼らが天使にかかえられて天国に召されるシーンは非常に有名だ。
よって、ここからは「あの世からのお迎え」として、このような天使の姿をイメージすることにしよう。
優しそうな微笑みをたたえているからといって、油断してはならない。
この天使は、少年一人と犬一匹をかかえて天国まで送り届けるほどのパワーを有しているのだ。スペースシャトルも舌を巻く輸送能力である。スペースシャトルの舌ってどこにあるんだ。
では、「お迎え」のイメージが固まったところで、長寿の秘訣に戻ろう。
ベルギーの地からやってきたお迎えを目の前にして、七十才がとるべき行動とは?
ん?
え?
はい?
えっと、
待って。一旦テキストに起こすのでちょっと待ってほしい。
長寿の心得 人生は六十から
七十才でお迎えの来た時は 只今留守と言へ
八十才でお迎えの来た時は まだまだ早いと言へ
九十才でお迎えの来た時は そう急がずともよいと言へ
百才でお迎えの来た時は 頃を見てこちらからボツボツ行くと言へ
まさかの交渉術だった。
お迎えへの対処と聞いて、塩をまいたり火をおこしたり魔法陣を描いたりするような呪術を思い浮かべた私が愚かだった。そんな軽いトークで撃退できるのか。
こういうことでしょ?
特に最初なんて「只今留守と言へ」である。
「おう、誰かおるかー?」
「誰もおらんで―。」
「そっか邪魔したなー。っておるやないか!」
これはもう吉本新喜劇の世界である。客席から安定の笑い声が響いてくるに違いない。
どうやら、フランダースの犬におけるお迎えを「絶対に客を逃がさない百戦錬磨の保険販売員」とするならば、日本のお迎えは「明らかにやる気のないガールズバーのキャッチ」のようである。一言二言で容易に断れる弱さだ。
しかしこれ、お迎えさん側も薄々わかってるのではないか?
「あの世いかがですか!」と言われて、ホイホイついて行く人などいない。それぐらい気づいているのでは?
だからこそ、やすやすと引き下がってくれるのではないだろうか。
私が思うに、お迎えさんは自ら進んでお迎えに行っているのではなく、無駄だとわかってて渋々やってるのだ。
それこそ、夜の繁華街で所在無げに立ち尽くすキャッチのようである。
なぜそんなことをするのか?これしか考えられない。
上司命令である。
おそらく、あの世には「人をあの世に引き込む」が経営理念の会社があるんだろう。
で、平均寿命の上昇に伴い、あの世に向かう人が減っている。
「このままでは、あの世の繁栄は遠のくばかりです!なんとしてでも人を連れてくるように!」と上層部にハッパをかけられ、「現場のこと全然わかってないよね…」と愚痴をこぼす。
そして、営業スマイルで「あの世いかがですか!」と健気に繰り返し、もちろん成果は挙がらず、空虚な報告書を提出してやり過ごす。
…気の毒である。
そんな会社辞めればいいのに辞められない事情でもあるのか、とにかくお迎えさんに同情せざるを得ない。
ここまで来たら考えよう。
あの世からのお迎えは何人いるのか?
天使のモチベーションの低さから、会社組織「お迎えカンパニー」に属することは推測できた。
では、お迎え天使は何人在籍しているのか?
お迎えは何人いるのか
まず、お迎えに向かうべき対象者は何人いるのか、そこから調べよう。
「長寿の秘訣」によると、70歳、80歳、90歳、100歳のときにお迎えが来るという。株式会社お迎えカンパニーは、それら一人一人にお迎え訪問しなければならない。
では、日本には、それぞれの歳の人は何人いるのか?
総務省統計局のサイトを参照し、2018年の日本における各年齢の人口を入手した。
70歳:211万5000人
80歳:115万5000人
90歳:47万人
100歳以上:6万9000人
なんと100歳越えが約7万人!これはドミニカ共和国の人口とほぼ同じである。
年齢三桁の方々が集まればドミニカになる国、日本。やはり長寿の国に違いない。
※100歳ぴったりの人口はデータが見つからなかったので、ここからは誤差を承知で6万9000人を「100歳の人口」とさせてほしい。
ということは、お迎え対象者は合計380万9000人いることになる。
一年365日に割り振ると、一日平均1万436人を訪問しなければならない計算だ。
これを達成するために、お迎えカンパニーが確保すべきお迎え人員はいかほどか。
それは「一人のお迎え天使は、一日で何人を訪問できるか」によって決まる。
まず、お迎え天使の移動速度だが、これはあの世とこの世を往復できるぐらいなので、どこへでも瞬間移動できると仮定する。
こんな感じ。
仕事とはいえ、日本列島を縦横無尽に飛び回ることができるお迎えさん。ちょっとうらやましい。
この速度で移動できるなら、出張のついでに温泉に入る、エステに行く、遊園地で遊び倒す、など余裕だろう。やるかどうかは別として。
となると、1万人のお迎え対象者がいようが、天使が数人もいれば1日でカバーできそうだが、ちょっと待った。
ここで、お迎えされる側の立場で想像してみたい。
70歳のある日、噂に聞いていた「あの世からのお迎え」と名乗る天使がやって来る。
当然、まだあの世に逝くつもりはない。断ってはい、終わり…
と、なるだろうか?
目の前に「あの世を知っている天使」がいるのだ。しかも十年に一度しか現れないという。
ついて行く気こそ無いが、聞きたいことは山ほど浮かんでくる。
あの世はどんな世界なのか、亡くなったおじいちゃんおばあちゃんは居るのか、去年死んだあの有名人は今どうしているのか、あの世にUber Eatsは届くのか…
興味は尽きることなく、お迎え天使を質問攻めにするだろう。
ということは、ゲストを質問攻めにすることでおなじみのトーク番組「徹子の部屋」一回分ぐらいは話し込むのではないか?
そこで私は3月9日~3月13日まで一週間分の徹子の部屋を録画しトーク部分の時間をストップウォッチで計測しながら全部見て30分枠のうち平均で19分20秒がトークだという結果を得た。
上の文に「、」を一切入れていないのは、情報を一気にたたみかけて、やっていることの異常性を悟られないようにする作戦である。
しかし、見ての通り作戦は大失敗なので、ちゃんと説明する。
3月9日~3月13日の徹子の部屋のゲストと、トーク時間は以下の通りである。
・3月9日 ゆりありく 18分58秒
・3月10日 倉本聰 17分01秒
・3月11日 八代亜紀 18分19秒
・3月12日 桐谷健太 19分16秒
・3月13日 中村倫也 23分07秒
これらを平均すると19分20秒となる。
ちゃんと見て気づいたのだが、徹子の部屋では「過去の放送回」や「ゆかりのある人からのメッセージ」など、VTRが頻繁に挿入される。
上記のトーク時間は、そのVTRやCMなども除いて、徹子さんとゲストが純粋にトークした時間だ。
回によって、トーク部分の長さにけっこうなバラツキがあることがわかる。中村倫也長いな。
あと、ゆりありく(猿まわしの人)がコントを披露していたが、要所要所で徹子さん一人の明朗な笑い声が響いてて、どんな心境だったのかちょっと気になった。最近話題の「無観客ライブ」ならぬ「観客徹子オンリーライブ」になっていた。
さて、徹子の部屋レポートはこれぐらいにして、本題に戻るとしよう。
高齢者の方と、あの世トークでひとしきり盛り上がるお迎え天使。一人につき19分20秒を費やしている。
労働基準法に従い、1日の労働が8時間だとすると、一人のお迎え天使が1日に担当できるのは、8時間÷19分20秒で24人だ。
ということは、全体ノルマの1万436人をカバーするのに必要なお迎え天使は、1万436÷24で435人!
…とはならない。
なぜって、お迎え天使にも休日が必要だからだ。
週休二日で働くとして、7人のお迎え天使がこのようにシフトを組めば、毎日5人ずつのお迎え天使を確保できる。
よって、稼働している人数の5分の7が在籍している必要があるのだ。
つまり、435人の5分の7で…
609人!
ふう、やっとたどり着いた。お迎えカンパニーに在籍するお迎え天使は609人。そこそこの大企業だ。
しかしそこに居るのは、ワンマン経営者のもと、今日も無意味な労働にいそしむ天使たち。
一刻も早く、組織の異常性に気づいてほしいものである。
仮定や推測の末に得られた結論だが、解釈の一つだと思ってもらえれば有難い。あの世のことだし。
「お客さん、お待ち!」
…あ。
そうだ、私はお昼ご飯を食べにきたんだった。
湯呑みを眺め、フランダースの犬を思い出し、高齢者の人口を調べ、徹子の部屋を計測しているうちに、銀鮭塩焼き定食がすっかり出来上がっていた。
私のもとにお迎え天使がやって来たら何を聞こうか、などと考えつつ、おいしく食べよう。いただきます。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!