大人と子供の境界線
つい昨日新海誠監督の最新作『天気の子』を観たのだが、小栗旬演じる須賀圭介は物語の中盤で主人公の帆高にこの台詞を吐く。
『大人になれよ、少年』
ちょっと待て、大人ってなんだ。
ある定時制高校にて出張授業をやらせて頂いた際に、ある生徒からこんな質問を頂いた。
『先生、大人と子供の境界線ってどこですか。というかどうなったら“大人”になるのか教えてください』
私がこれまで高校生から受けた質問で一番素晴らしい質問であり、答えるのか難しい質問だった。
私自身もお恥ずかしながらたじたじになってしまったご質問だった。
広辞苑で調べてみるとこんな内容になる。
①十分に成長した人。(元服または裳着もぎが済み)一人前になった人。成人。源氏物語桐壺「―になり給ひて後は、…御簾みすの内にも入れ給はず」。「体だけは―なみだ」↔子供。
②考え方・態度が老成しているさま。分別のあるさま。源氏物語若紫「そもそも女は人にもてなされて―にもなり給ふものなれば」。「あの青年はなかなか―だ」
苦し紛れの私の答えは『ぶっちゃけ大人と子供なんて変わらないと思う。大人も皆と同じように悩むし失敗するし後悔する。でも自分の人生を自分で決めれるようになった時と、誰かの人生の責任を持つようになった時は、限りなく大人に近づくかもしれない。』と何とかリアクションしたものの、『あれ、俺はちゃんと大人ななんやろか?』と考えてしまう自分がいた。
自分で答えて改めて問い直してみたものの、『自分の人生を自分で決められるようになった時』って一体どんな時だろうか。
そもそも90%の人がサラリーマンである日本において、自分の人生を本当の意味で自分で決められる人はどれくらいいるというのだろうか。サラリーマンではなく経営者であっても本当に自分がこの世界で生きる上での天命を見つけられている人がどれくらいいるだろうか。大概の場合は人生を自分の意志とは違うところのレールを敷かれている場合がほとんどではないかと思う。良くも悪くも大人の代表格である自分の親は子供が失敗しないようなレールを敷くことが責任だと思っているからだ。
『誰かの人生の責任を持つようになった時』というのは結婚した時、自分の子供が生まれた時がわかりやすいかもしれない。ただここでいう責任という言葉も色んな認識があって基本的には多くの大人が責任という言葉は『何かが起こってから取るもの」だと思っているがそれは大きな勘違いだと思う。
責任というのは、不倫をして政治家を辞任することでも、芸人が反社会的勢力の宴会の場に関わったことを反省して会社を去るような安易なアクションではない。本質的にはそうではなくて『何かが起こる前にとるもの』だと思っている。
今の私は28歳。関西の田舎で1日でも早く「立派な大人」になりたいと東京に思いを馳せていた10年前、「大人」とはもっと失敗も少なく悩みも少ない完璧な存在だと思っていた。それから10年が経った今、面白いくらい当初よりも失敗も多く悩みも多く自分が思い描いていた完璧とは程遠い世界観がここに待ち受けていた。違う見方をすれば毎日成長し続けており10年前に描いていた自分よりも圧倒的に面白い人生が待ち受けていた。
同じように大学を卒業して社会に出ている友人とも卒業後に近況を共有する機会が増えているが、10年前に想像していたような完璧な大人なんてそういない。
つまるところが社会的に『大人』として見られているほとんどの人が子供が想像しているような存在ではないということになる。なんのことはない。僕たちは何らかの縁があってこの世に生み出された生命体であり、地球が生まれて46億年の歴史の中では大人も子供も大して違いはない。
それぞれが人生それぞれの局面で何故この世に生まれたのか、何のために生まれたのか、私とは誰なのを皆答えを求めて探し続けているのだ。言い換えると、人生は『自分とは誰か』を探す旅でもあるのだ。そんな大きな旅をしているという点で大人と子供の境目なんてものは存在しない。みんな同じ人生を旅する仲間でしかない。まずはその意識を根底に持つ必要がある。大人も子供も同じなのだと。
『天気の子』で主人公に『大人になれよ、少年』と放った須賀圭介をはじめとして、物語に出てくる沢山の大人達は主人公の穂高の行く手を途中阻もうとする。
それはそれぞれが属する組織の力学の中での行為であり、一大人として子供を守ろうとする責任の取り方だったりする。
中学生、高校生は本当にキラキラしていて行動力も大人に比べて抜群にある。大事なもの、愛しているものを守る為のなら世界がどうなろうと構わない。そんな危うさもある。
そんな彼ら彼女達を見て大人の我々は何ができるのか。その時にただ行く手を阻む大人になるのか、組織の力学を超えて彼らの気持ちを理解しアクションできるのか。
本当の大人になれるかどうかはその時に試されるのかもしれない。
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