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映画感想|『遥か群衆を離れて』

どれほど自然が厳しく、農場の暮らしに困難が降りかかっても、ひとは恋に落ち、溺れる。そして恋は、ひとを愚かにもし得る。

美しく溌剌とした娘、「あの若く豊かな性質のもの」は、その奔放さゆえに軽率でもある。ヴィクトリア朝の時代に、女が自ら経営をし、夫を選ぶのは、規格外に大胆な振る舞いだったのではないだろうか。

恋するものたちの、瑞々しい描写。隣の農場主の、ヒロインの姿を探し求める眼線、軍曹の剣を振り回す示威的行為は、(観客それぞれ思い当たる節によって)うんざりさせもするが、微笑ましくもあるし、羊飼いは側にいて農場を支える。

狂躁の都会を遥かに離れた、イングランドの自然の描写もまた重要な見どころで、舞台の広がりを感じさせる。ミレーの『種をまく人』や『落穂拾い』を、そこで行われている様として鑑賞できる驚きや喜び。

わたしたちのテレンス・スタンプは、破壊の天使であり美貌の悪魔であり(『テオレマ』の時と同じく)、さらに軽薄で滑稽な優男として顕われる。いつものように、どこにいても、誰といても、異質だ。テレンスの活躍シーンがたっぷり、それだけでも祝福すべき映画。もちろん、それだけではないのだが。

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「 」内引用 『あわれ、彼女は娼婦』 ジョン・フォード 小田島雄志訳

これで、あなたもパトロン/パトロンヌ。