
「吾輩は猫である」より胃薬タカヂアスターゼについて
最近、夏目漱石の吾輩は猫であるを読了しました。
頭の良い猫による批評、各先生方の無駄に頭のいいやり取りなど、楽しむポイントが多く、非常に面白かったです。
各登場人物に夏目漱石の考えを色んな形で代弁させているのかなと思いました。
歴史上の出来事、哲学、思想を現代の生活の中に落とし込むとどうなるかを考えるのが上手で、それを面白おかしく描いて見事に文学に昇華させています。
日常にも哲学を持ち込めると人生豊かになりそうですね。
前置きが長くなりましたが、ただ感想を述べたかっただけではありません。
読んでいて気になったものに、『タカヂアスターゼ』という胃薬があります。
作中では、苦沙弥先生に愛用されたり、後半では酷評されたりしていた薬ですが、あまり聞いたことが無いですし、この時代の薬がどんなものかも興味があったので少し調べてみました。
これも薬学部出身の性でしょうか。
現代でも売られている
まず驚きなのが現代でも第一三共株式会社から販売されているれっきとした薬価収載医薬品だったということです。
きちんと添付文書やインタビューフォームも存在します。
ちなみに
【効果・効能】は主として炭水化物の消化異常症状の改善
【用法・用量】はタカジアスターゼとして、通常成人一回0.2~0.3gを1日3回食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
日本薬学会のサイトによると100年以上利用されている珍しい薬のようです。
以下は引用です。
『今、世の中で、100年以上の間、利用されている薬は3つしかない。タカヂアスターゼ、アドレナリン、アスピリン。そのうち2つが譲吉の功績である。』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー公益社団法人 日本薬学会
https://www.pharm.or.jp/souyaku/takadiastase.shtml
タカヂアスターゼの発見と高峰譲吉
続いてタカヂアスターゼの歴史についても少し触れます。
タカヂアスターゼを発見して薬にしたのは高峰譲吉という人です。
大正時代の科学者、実業家であり、三共の創業者、理化学研究所の設立者の1人でもあるというかなりスゴイ人のようです。
高峰譲吉は、米国で1889〜1891年頃のウイスキー醸造での麦芽や米麹菌を比較・検討する過程において、麹菌(Aspergillus oryzae)がより強力な糖化力をもつジアスターゼを産生することを発見し、これをタカヂアスターゼと命名しました。
(糖化力というのはデンプンからグルコース(単糖になればエネルギーとして利用可能)に分解する力、つまりアミラーゼやグルコシダーゼによるグルコース生成力みたいなものです。)
アスペルギルスといえば醸造とかに使われる真菌、いわゆるカビですね。
なお、医療事故防止対策として、「タカヂアスターゼ」から「タカヂアスターゼ原末」に販売名の変更を申請し、2008年3月に承認された。
よって今は「タカヂアスターゼ原末」という名前で売られています。
これはおそらく医療用であり、処方箋がないともらえませんが今でも出されることがあるかは知りません。
タカヂアスターゼ原末はアスペルギルス オリゼーより産生する消化酵素(タカヂアスターゼ)であり、タカアミラーゼをはじめとするアミラーゼ、プロテアーゼなど種々の消化酵素を含みます。主要糊精化アミラーゼであるタカアミラーゼAの分子量は約54000である。
アミラーゼ以外の消化酵素も入っている健胃薬ということになりますね。
ちなみに一般用医薬品として薬局でも買えるものに新タカヂア錠というものが出ています。
名称の由来
「酵素」を意味する「DIASTASE」をドイツ語読みにして、これにギリシャ語で「最高」あるいは「優秀」を意味する「タカ」、高峰の名前を意味する「高;TAKA」を冠した。
ただ高峰さんだから「タカ」、だけでは無かったようです。
気になったこと
タカヂアスターゼ原末のインタビューフォームのデータでは胃内pH付近の酸性で割とすぐに失活しているように思えました。
胃薬なのにそれでいいの?って思いました。
アミラーゼ以外にもプロテアーゼなど他の消化酵素があるからいいんでしょうか?
このあたりは新タカヂア錠では改善されているようでpH3〜8でも有効で、胃酸でも消化力が低下しないとのこと。
特別な副作用や相互作用も無さそうですし、何より100年以上の歴史があることからも一般用として安全に使用しやすい薬なのでしょう。
途中から苦沙弥先生に効かない呼ばわりされていましたが、歴史ある良薬という印象です。
以上、文学薬豆知識でした。
参考
タカヂアスターゼ®原末 薬剤添付文書 第一三共株式会社
タカヂアスターゼ®原末 インタビューフォーム 第一三共株式会社
新タカヂア錠® https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_otc?japic_code=J1401000256
Wikipedia 高峰譲吉 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/高峰譲吉
こちらにも説明と写真付きで掲載されていました。
参考として引用させて頂きます。