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ホームセンターのコンシェルジュ#1 『となりのプロから』


はじめに


思いがけず、その道のプロに出会うことがある。

例えば高級ホテルでコンシェルジュのサービスを受けても、それは普通なことで驚かないが、近所のホームセンターで、それに等しいレベルの接客をされると強烈に心を打たれる。
あの人は何であんな接客ができるのだろうと気になって、その人に興味が湧いてくる。

このシリーズは、私が出会った方へのインタビューを通して、人に感謝される働き方とは何かを探ってみたい。


今回のインタビュー記事を書くにあたり、ホームセンターの責任者の方に公式取材を申し込みましたが、「多くの従業員を抱える大企業の店舗では、店員の能力は一律ではないため、読者の方に誤解を与えないためにも、企業名や個人名を伏せた形でお願いします」という、ごもっともな返答をいただきました。
そのため今回は、店舗は北海道にあるお店ですが、企業名や個人名を公表しない形で、店員の方へのインタビューを元に記事にしました。

ベッドをネットで選ぶリスク

私はベッド購入に際して、スマホで下調べをしようとしましたが、検索記事だけでは自分に合うベッドを判断できませんでした。
しかし店舗では、店舗内の商品は限られるため、後でもっと良い商品が見つかったらという不安もありました。

そんなベッド選びの末、私はホームセンターで一人の売り場担当の方に出会いました。

以下、その方をNさんと明記します。(本来ならN様と明記すべきかと思いますが、親しみを込めてさん付けさせていただきます)

私はベッドについて、Nさんに長いこと相談し、商品を提案してもらううちに、「ネットの下調べ」や「後でもっと良い商品が」などと考えること自体、不毛な考えだったと気づきました。

なぜならベッドは、その人の身体的特徴や寝る姿勢にとどまらず、年齢、体の調子やこれまで使ってきたベッドのタイプなどが選ぶための要素であり、実際に寝てみる大切さは言うまでもありません。
そのため、ネット記事の限られた商品から消去法的に選ぶことや、他人のクチコミの方がよっぽど参考にならないと実感したのです。

そしてベッドに詳しいNさんに相談すると、ネットよりもずっと瞬時に、根拠ある提案をいただき、同時に疑問や不安も解消できました。

Nさんは、お客様の困り事を聞き、解消するための提案を行うことを第一に考えていると、インタビューの中で話されました。
その言葉どおり、Nさんの接客はまるで「コンシェルジュ」のようでした。

コンシェルジュという言葉は、本来フランス語では「集合住宅(アパルトマン)の管理人」という程度の意しか持たない単語である。そこから解釈を広げ、ホテルの宿泊客のあらゆる要望、案内に対応する「総合世話係」というような職務を担う人の職業名として使われている。

出典元:Wikipedia

今回は、ホームセンターのインテリア家具売り場で働く、Nさんに仕事についてのお話を伺いました(記事は全3回です)


水鳥:先日購入したベッドが届きました。おかげさまでこれまでのベッドより、とても快適な気がします。

Nさん:それは何よりです。ベッドを買い換えた場合、どんなものでも、なかなかすぐにピッタリくるという方は実は少なくて、どうしてもそれまで使って、へたってしまった寝心地が悪いマットレスでも、寝ているクセって抜けないので、すぐにピッタリ感じる人は2割くらいしかいらっしゃらないんですよ。

水鳥:えっ、そうなのですね。

Nさん:どんなに寝づらいと思っていても、以前の物に体が馴染んでいるので、商品としての「かたい」や「やわらかい」などはあっても、新しいものはすべての物に反発力があるし、しなやかであるので「なんか寝づらいかな?」と思う方が多いのですが、それは良かったです。

変化の時代に求められた商品開発


水鳥
:今回は非公式のインタビューにはなりますが、可能な限りの個人情報として、ご年齢を教えていただくことは可能でしょうか?

Nさん:はい、61歳です。

水鳥:ちなみにこちらのホームセンターの、家具インテリア売り場担当のお仕事は、何年くらいお勤めされていますか?

Nさん:12年目です。インテリアの世界で前々職の会社で、さらに18年携わっておりまして、その後家業を継ぐため、10年ほど園芸という別業界で働いておりましたが、この業界では長い方だと思います。

水鳥:では新卒の頃から、家具やインテリア業界でお仕事をされていらっしゃったのですね。まさにベテランですね。

Nさん:私は大学卒業後、インテリアの卸売と不動産の2つをやっている会社に入社し、インテリアの営業として6年、その後、家具の商品開発部門に12年務めました。

水鳥:前々職のインテリアのお仕事と、現在のホームセンターでの家具の売り場のお仕事に大きな違いはありますか?

Nさん:全然違いますね。前々職で勤め始めた時代の40年前には、北海道でも家具のお店は180店くらいあって、非常に盛んな業界でした。

それまでの北海道では、地場に根付いた生活に合う家具を、お客様はお選びになり、当時の家具屋は花嫁たんすを柱として、嫁入り道具の鏡台や2点セットというように大口の流れがありました。
ところが今はどうでしょうか?そんなものを買いに来る人はいませんね?

水鳥:そうですね。

日本人の暮らしに合い、手に届く家具を


Nさん:これまでの和物文化や風習家具から、洋物文化やデザイン性が求められる中で、インテリアと呼ばれるものができあがっていった時代でした。

そんな時代に、私は家具の卸の営業として、社会人生活をスタートさせ、主に百貨店様を担当しました。
百貨店にいらっしゃるお客様というのは、流行の感度の高い方が多く、デザイン性や知名度など、そういったお客様への営業を通して感覚を養っていきました。

その後、1989年に商品企画部へ配属になり、営業での経験を活かしてソファやダイニングセット、ベッドなどのオリジナル商品の開発に従事しました。
商品開発にあたり、まずは西洋の文化を知るため、アメリカのサンフランシスコマートやノース・カロライナの世界の家具の首都都市といわれるハイポイントなどに、5回ほど視察に行かせてもらいました。


2023ハイポイントマーケットのパンフレット
画像引用元:High Point Market URL:https://www.highpointmarket.org/


そこで絵コンテや写真やサンプルをもらい、日本人や北海道の暮らしに合いそうなデザインを取り入れたり、ダウンサイズしたものを作ってもらうように、中国のエージェントさんに資料を送りました。

なぜ中国に送るかというと、今では当たり前ですが、洋物家具を新たに展開するにあたり、人口減が既に予想されていた当時、コストが抑えられる海外で製作しなければ、これまで通りの国内で作るやり方では、この業界では生き残っていけないと思ったからです。

開発ポイントは「制作側が仕掛けるのではなく、ユーザーがどんな商品を求めているのか」でした。多くの人々に行き届くような商品を開発するためには、まずは「コストダウン」と販売店の「売りやすいもの」を提供するという作戦をとりました。

全く同じころ某家具の小売店様も、やはり同じような流れでそういった開発をすすめられていました。
そんな自社工場を持たない問屋として、北海道の130社くらいの取引先様に納品展開させていただいてました。

水鳥:そうだったのですね。前々職では営業や接客だけではなく、開発にも携わっていたのですね。

Nさん:前々職で学んだのは開発職で得た商品知識と、接客に関しては百貨店担当だったということ、この2つが現在の仕事に重なります。

つづきます→百貨店で学んだ接客の本質

(ベッド選びについて知りたい方は、真面目なベッドの選び方も良かったら!)


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