楳図かずおさん幸せをありがとう
楳図かずおさんが亡くなられてからというもの、中学生の頃の楽しかった日々が、昨日のことのように思い出される。
おろち、洗礼、恐怖、怪、その他諸々……友達と小遣いを出し合って、近所の小さな古本屋さんで苦労して集めた楳図かずお作品の数々。
ブックオフみたいなきれいな古本屋だったら、堂々とウキウキと探しに行くことができたのだけれど、そんなものは当時なかったし、何より古本屋に明るいイメージはなかった時代。もちろんネットもまだない。
私たちの行っていた古本屋さんはとても狭く、入り口も小さく入りづらくて、言葉は悪いけど、薄気味悪い洞穴みたいなところ。
また、中学生の女子が恥ずかしさで居た堪れなくなるような本もたくさんあったので(成人向けのコンテンツがビニールで包装されていた時代)、買いに行くのにものすごく勇気が必要だった。
救いは、友達の兄もコソコソと通っていて仲間だったこと。それだけでちょっと安心していたように思う。
古本は当然ながら、誰かが本を売らなければ在庫はない。だから、ないかもしれないけれど行く。これを繰り返す。
二人だと 気恥ずかしくなる 古本屋
私と友達はどっちが行くかをじゃんけんで決めた。負けた方が一人で行き、楳図作品を入手できたら、今度はどっちが先に読むかをじゃんけんした。もちろん勝った方が先。
……何度通っただろうか。少しずつ少しずつ集めた楳図かずおさんの作品。
当時、中学生の女の子があのような古本屋で楳図かずおさんの漫画を集めて楽しむというのは、ちょっとというか大分変わっていることで、こういう部分を共有できる友人と巡り会えたこと自体がすごいこと。
友達の家で瓶の三ツ矢サイダーをいつも私は銀、彼女は金のカップ(たぶん引き出物)で飲みながら漫画を読んだ。すごくリッチな気分だった。
「出来ない出来ない」と言いながら『グワシ』も練習した。ただそれだけで楽しかった。
実はこれ、仲良しグループの他の友達は知らなかった二人だけの秘密。なんとなく引かれそうで内緒にしていたのだ。
この秘密を共有した友人とは大人になっても仲良くしてきた。気が置けない友人がいるというのは実に幸せなこと。
楳図かずおさんに心の中で感謝をしながら久しぶりに『グワシ』を練習してみたけれど、やっぱり出来なくて……
家族もみんな「出来ない出来ない」と言いながら『グワシ』をやろうとしている姿を見ていたら、とても幸せな気持ちになった。
楳図かずおさん、幸せをありがとう。
心よりご冥福をお祈りいたします。
サバラ
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