あの時代、だった。

 キャンパスが閉鎖されている。授業はもちろん無い。

  えっ?なぜだって?

 「我々はァ〜、断固としてェ〜、戦うぞー!」

 俺たちが、闘ってるから、閉まってるの!

 ヘルメット被って、ゲバ棒持って、布で顔隠してるから!

(違いますよ、病気が流行っているからですよ)

 いや、我々が、大学当局と、さらには国と闘っているから、閉まってるの!

 ノンポリの学生共からしたら迷惑極まりないだろうが、我々はやらねばならんのだ。

 学費を値上げした大学当局も、安保を通した日本政府にも、我々は反対するのだ!何のためにバリケードを作ったと思っている?

(今を見なさい、今を!今はいつだか、分かってるの?)

今?そういえば、いつだったかな?そんなことはどうでもいいんだ、いずれ、このキャンパスにも機動隊が突入してくる。その対策のために、バリケードを固めてるから忙しい。椅子を、机を、とにかく横倒しにして道を塞げ、塞ぐんだ、ぐずぐずしちゃいられない。

(落ち着きなさいって!キャンパスは開いているし、授業もオンラインでやってるって!)

 なんだって?オンライン?なんだそりゃ、聞いたことがない横文字だな。どこかの党派にオルグされて、変な用語でも吹き込まれたのか?ああ?

(だから今を、現実を、見るの!)

 それ以上うるさくしたら、火炎瓶を投げるぞ。我々は、革命を成し遂げるために必死なのだ!

 おや、ポケットの中で何かが震える。

これは、

スマートフォン、

だ。

 ああ、そういうこと。

「もう、敗けているのさ。」

何も無い。ヘルメットも、ゲバ棒も、火炎瓶も。

「愛してる。」

そう言って暮らしていればいいのかい?

無理。ロープ、それが答えさ。




 

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くこ
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