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子どもの権利を守る気がない人たちと、守りたいけれどうまくできない人たち

「保育って奥深いんですよね」と、その人は言った。

誰もが知っているほどの企業で研究職を務め、定年退職後も引き続き研究所などで働く選択肢がありながらも、地域の福祉の役に立ちたいと放課後児童クラブ(学童保育)でパートタイマーとして働き始めたそうだ。

「学べば学ぶほど、この保育や支援の面白さ奥深さを感じる」と、キラキラした目で語ってくれた。この仕事を始めてまだ半年程だそうだが、何年も保育について語らってきた友のように、その人とは子どもの権利と福祉について話ができた。

一方で、その事業の運営を担う組織本部は、「幼児期は子どもの人格形成の上で重要だ」「社会の課題解決を」「ソーシャルインクルージョンを目指す」等と謳ってはいながらも、実際は「学童の先生になるような人は落ちこぼれでしょう、うまくコントロールして使ってください」と、“学童の先生”をしている僕に対して悪びれることなく言ってきた。

子どもの権利についても、「大切なのはわかるけど」という言葉で非難され、児童の安全や尊厳が守られないままの環境を現場が強いられていた。

こんな話をすると「現場によるでしょう」と言われるだろう。けれど、保育の業界にいる方なら「そんな現場珍しいでしょう」とは思わないんじゃないだろうか。僕はこれまでも何度も経験した無力さを抱えながら、結局またこの現場も辞めることになった。

例えば僕が解決したいことが「伸びてしまったうどんのコシを戻す方法」とかなら、もう諦められるのかもしれない。うどんが伸びても誰も困らないし。コシが強い方がいいというのは僕のエゴかもしれないし。

けれど、僕が向き合ってきたのは、いま生きている子どもたちだ。今実際に目の前にいる、その子たちのことだ。だからやっぱり諦めるわけにはない。諦めてはいけないと思うのだ。

今までと今現在の保育のこと

この業界は浅いのに保育の奥深さを感じて子どもの権利を守ろうとしていたあの人と、その事業を運営する立場であっても保育という仕事を軽んじてしまう人と、どこで違いが生まれるのだろう。

保育や子育ては、なんのためにあるのか。そう聞かれた時に、それぞれの立場でそれぞれの見解があるだろう。

ただ、この問いに関してはもう答えがある。それは、「子どものため」だ。「そりゃそうだ、何当たり前のことを」と思うだろう。

僕が働いてきた保育や放課後支援の業界も、この「子どものため」が土台にある。もう少しちゃんと言うと「子どもの権利の保障のため」これが保育の大原則だ。

「子どもの権利」という言葉だと小難しく感じるかもしれないけれど、「子どもがひとりの人として大切にされること」と言えばきっと多くの人が共感できると思う。

ひとりの人として尊重されながら育っていくのを保障すること、それが保育の役割だと言っても過言ではない。

しかしながら、それが大原則にある業界であっても大多数の現場で「そうは言っても現実は」という言葉でそれが蔑ろにされているのが現実だ。大袈裟な表現ではなく、「保育」というものができてから何十年も前から、今現在もなお形を変えながらずっと抱え続けているこの業界の課題だ。

子どものためにある、子どもを取り巻く環境の中で、子どもをひとりの人として大切にすること(子どもの権利を保障すること)よりも大事なことがあるとでも言うかのように、社会の構造や組織の慣例や利益、個々の積み上げてきた価値観の方が優先され、それが正当化されている現場が多くあるという「現実」。

そんなことを言っては保護者を不安にさせてしまうし、ひいては子どもの不利益に繋がるのでは。という意見もよく言われるけれど、その意見が、今すでに不利益を被っている子どもたちを救うとは思えない。なので今回は躊躇わず書いている。

報道で話題になるような「不適切な保育」だけでなく、もっと身近な当たり前に行われている慣習から、子どもの命や尊厳に関わることも含めて、子どもの権利(人権)が軽んじられてる。

こういった話をすると決まって、「子どもの権利も大事だけれど」いう言葉と「すぐに解決できるものではないのだから、もう少し長い時間をかけてゆっくりと」という助言をもらうが、その言葉にも“今の子どもたちの存在”はない。

今すでにしんどい思いをしている子どもがいることに向き合わずして、いつそれが実現できるのだろうか。その実現はなんのためにあるのだろうか。

だから、いつか誰かが、ではなく、今僕たちが変えていかなければならない。その思いで僕は、子どもの権利を保障した保育の実現を目指して現場での実践を通して、その問題解決に寄与しようとやってきた。

けれど、やはり大きな力には抗えない。どれだけ子どもの権利を侵していようとも、子どもの安全が保障されなくとも、組織としてそれを解決しようとしたり問題に向き合う気がなければ、いち保育士にはなす術がない。変わろうとするのはいつも、問題や事件が起きてからだ。

そんな中で子どもたちの環境を守ろうとやればやるほど、目を背けずに向き合おうとすればするほど、自分の無力さを知り追い込まれていく。そうやってこの業界に潰されて去っていった人たちを多く見てきた。そして、僕もとうとうその一人となった。

「自分の身を守るために、折れるとこは折れた方がええと思うよ」と友人に言われたけれど、僕には折り合いがつけれなかった。

僕は現場で生きてきた。どれだけ立場が上になろうと、運営に携わろうと、目の前の子どもと保護者と職員のために保育という仕事をすると決めていた。けれど、それはもう叶わないのだと思った。正直、もう絶望していた。「無理やんもう」って。

けれど、そんな社会でも、子どもの権利を守るために日々現場に立ち続けている保育士や教育者はいる。子どもがその子らしく育つようにと願って子育てしている人たちがいる。折り合いがつかないことに折り合いをつけて、その場の最善を見つけて踏ん張っている人たちがいる。

それならば、僕にはそれはできないけれど、今の僕の立場でできることを、目の前に子どもはいなくても、その先にいる子どものためにできることがあるかもしれないと思うことにした。

子どもの権利を守る気がない人たちと、守りたいけれどうまくできない人たち

子どもの人権を軽んじて、子どもの利益より大人や組織の利益を優先してしまう価値観の人や組織がある。そういった人たちの考えが変わることや、そういった組織が変革することは子どもを取り巻く環境においても、人権が保障される社会を作っていく上でも、必要なことだろう。

ただ、子どもの権利を考える上で難しいのは、子どもの権利を守りたいと思っている人たちでも、うまくできないことだ。子どもの権利を守ろうと思う気持ちだけでできるものではないのだ。

子どもが言うことを聞いてくれない。子どもの思いを尊重したいという思いはあるけれど、甘やかしてはいけない気がする。周りはちゃんとできているのに自分はできていないように感じる。今は助けられるけれど、後々のその子のためになっているんだろうか。子どものためにしているはずなのに、子どもの心が離れていく。

そんな風に悩んだり不安になって、できていない自分や子どもを責めてしまい、さらにしんどくなっていく。守りたいと思っている子どもの権利を守れず、どんどん自信がなくなっていく。

そんな葛藤を抱えながらうまくできなくて悩んでいるときに、「子どもの権利を守るのも大事だけれど、社会人としてもっと大事なことがあるでしょう」なんて言葉で非難されると、自分があたかも幼稚な理想を描いて踊っているかのように思わされ、恥ずかしめられる気持ちになる。

子どもの権利について、子どもの最善の利益について考えてやっていても、目に見える成果がなくて自分がやっていることが本当に正しいのか不安になってくる。僕もそうやって悩み続けてきた人間のひとりだ。

僕は、変わろうとしない人や組織を変えようとしてきた。もちろんそれも必要なことだと思うし意味があったと信じたいけれど、これからはまず、それを実現しようとしている人たちの力になることにする。

子どもをひとりの人として大切にしたい。子どもの権利を保障したい。そう思っている人や保育者や家庭や組織の支援がしていきたい。

子どもの権利を保障するのは、愛情ではない。「子どものために」という思いだけでは、残念ながら子どもの権利は保障されない。

子どもの権利を保障するのは、具体的な方法や環境だ。適切な環境を整え、適切な視点で見守り適切な支援をしてできることだ。それを仕組みにしてみんながそれぞれの権利を守れるようにしていく必要がある。

ただ、その具体的な方法を知ったり環境を整えるためには、やっぱり「子どものために」という思いがあるからできる。

その、「子どものため」にという思いが、愛情と呼ばれるものが、適切な形で子どもに届くように、子どもがひとりの人として尊重され育っていけるように、その子の人生のそばにそれぞれの人生が寄り添えるように、そんなお手伝いがしていけたらと思っています。

最後の悪あがきです。

よろしくお願いします。


ーこんなことをしていきますー

◯個人に向けて◯

子どもをひとりの人として大切にしたいと思いながらも、うまくいかない。具体的にどうすればいいかわからない。という方のためのコミュニティを始めました。お気軽にご参加ください。

◯組織や自治体に向け◯
子どもの権利を保障した現場づくりやチームづくりのサポートも始めています。研修で学ぶだけでなく、そこで学んだことを、具体的に実践に生かすためのチームづくりのお手伝いをしていきます。
それぞれの現場チームから、組織・自治体全体での取り組みなど、必要とされる方はお声がけください。僕のチームづくりの考え方が参考になる記事を貼っておきます。

◯その他◯
・研修、講演
それぞれの現場への研修や、自治体主催の教職員向けの研修などのご依頼もいただいています。テーマは「子どもとの関わり」「支援員の仕事」「子どもの権利」「子どもとデザイン」など幅広く行っていますが、少しでも現場のお役に立てれば幸いです。
・運営支援
主に放課後児童クラブの運営、マネジメントの支援を行っております。子どもの権利を保障するためには、継続的な安定した経営が必要なのでお力に慣れたらと思います。
・デザイン、ブランディング
子どもの権利は見栄えのしないもの。だからこそ、その本質が伝わるような広報等のお手伝いを行っています。イラストを使ったパンフレット作成や組織の行動指針の解説など承っています。

なお、子育てや保育に有用な情報は無料ででも多くの人のもとに届いてほしいという思いでいますので、今後もSNS等は続けていくつもりです。

僕にできることを、僕にできる範囲でやっていこうと思います。

よろしくお願いいたします。

きしもと たかひろ


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