【ほんのりBL】通り雨ラプソディ 01
「や、いいから。俺はマジでいいから。気にすんなって」
「あ、や、うん。つか、気にすんなって無理だろそれ」
突然の雨が、夏服のシャツにひとつまたひとつと染みを広げ
友人の肌に吸い付いていく。
俺は家を出る前に必ず天気予報を確認しないと落ち着かないタイプで、
降水確率が30%を越えると傘を持ち出さずにはいられない。
その甲斐あって、現在、突然の降り出した雨に打たれずに済んでいる。
俺、ひとりだけ。
「気にすんなって言われても気になるって。傘ん中入りなよ。つか入ってお願い」
学校を出た時は真夏の強烈な光線が降り注いでいた。
帰宅部の俺、志村和樹と山口宏明は、いつも通り帰路に着き、いつもの流れで昼休みのゲームの続きをするために俺の家に向かい、最短コースとなる、田んぼのあぜ道を歩いていた。
収穫が迫る、色づき始めた稲穂が一面に広がる。
そこへ突然の通り雨。
俺とは対照的な性格の宏明が、雨が降ってもいないのに傘を持っていることなど到底ありえない。
宏明はスマホとゲーム機だけ鞄の奥深くへ入れ、自身はあっという間に雨に濡れていく。
「だから気にすんなってば。男同士で同じ傘入るとかキモいだろ」
この男はどこまで男らしいのか。
田園の真ん中で人の目などまるでない。
もし人が見たとしてもこの大雨の中だ。
おかしな目を向けられることはないだろう。
俺としても、ふたりでいるのに自分だけ傘を差してはいられない。
しかし、この男らしい友人は、俺が傘を畳もうとすると咎めるように止めるのだ。
「だからひとりじゃ差してらんないってば。止めるくらいなら宏明も傘ん中入れよ」
「やだって。俺はちょっとくらい濡れても平気だから」
「じゃあ、俺も平気」
「お前までわざわざ濡れることないだろ」
会話は平行線。
頑固が出て、歩を速めようともしない。
乾いた土が湿りを帯びる匂い。
稲穂が濡れる匂い。
「だから……、さ。良くないよ、濡れるのとか……」
激しさを増すばかりの雨が傘をけたたましく叩き、いつしか俺の呟きまでかき消す。
濡れたシャツが透けて、肌色を宿していく。
額に貼り付く長めの前髪。
雫を湛えたまつ毛。
宏明が、濡れてく。
―― なんだ、この感じ。
- 続く -
※ エブリスタにも同時にUPしています。
エブリスタにて、長編BL小説更新中です
『巡る明日に君がいない』
http://r.estar.jp/.pc/_novel_view?w=23868932
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