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ハじメいチこ
2016年2月28日 13:44
雨の中、ふたりしてずぶ濡れで立ち尽くす。顔が上げられない。宏明の顔が見られない。いきなり傘を壊すなんて、誰が見ても異常行動すぎる。呆れただろうか。呆れるどころじゃないかもしれない。――絶対おかしいヤツって思われた変なやつだって思ってる絶対!「――ぶ……っ!」「……え?」微妙な沈黙を先に破ったのは宏明だった。「ははっ。お前アホすぎだろ。折るとか意味分かんねぇ。はははっ
2016年2月27日 01:33
「まぁ、傘はいいからさ。お前んち着いたらシャワー貸せ」「――――っ」心臓が、跳ねた。何か熱のような息苦しさが込み上げ、数歩前を行く友人の背に、全神経が集中する。――や、これダメなやつだ。ダメなやつだこの感じ……っ!友達相手に。しかも男同士なのに。でも、雨に打たれて濡れる宏明の肢体から目を離せない自分がもう自分では制御不能だ。「――ふんっぬーーーっ!」俺は、咄嗟に
2016年2月26日 11:58
「や、いいから。俺はマジでいいから。気にすんなって」「あ、や、うん。つか、気にすんなって無理だろそれ」突然の雨が、夏服のシャツにひとつまたひとつと染みを広げ友人の肌に吸い付いていく。俺は家を出る前に必ず天気予報を確認しないと落ち着かないタイプで、降水確率が30%を越えると傘を持ち出さずにはいられない。その甲斐あって、現在、突然の降り出した雨に打たれずに済んでいる。俺、ひとり
2016年2月24日 10:22
「おい」「……あ……ん……?」「おい」「もぉ……、おき……」「……おい!」「痛……っ? な、何っ?」丸めた書類で、隣りのデスクに沈没した後頭部を叩いたら、思いの外軽快に「ポコッ」と音が鳴った。ガバッと顔を上げた男は、その口からだらしなくヨダレを垂らしている。「何、じゃねーよ。古賀てめぇ、いつまで学生気分でいやがる」俺は、瞼を重そうに持ち上げる総務部の中堅社員、古