開発秘話 「靴下屋」のタビオが本気で取り組んだ、「執念」の超・消臭靴下
※こちらの文章は、Makuakeにて掲載された記事の転載となります。
「完全に足の臭いを消してくれる靴下」
商品担当者のアダチは、日々商品企画を行う中で、ずっと一つの課題を持っていた。
タビオで「消臭」や「デオドラント」と表示を行なっているものは、厳しい自社基準の中、数値的に非常に優秀なものであると自負している。
現在市場の検査機関で検査し効果があると認められているのは、アルカリ性のアンモニア、酸性の酢酸やイソ吉草酸といった汗臭の臭気成分を、それぞれ試験パックに入れ一定時間後にどれくらい減少しているかを測定し、一定以上減少していると効果があるとする試験方法だ。
無論、くどいようだがタビオが消臭糸使用と表示をしている商品は、全てにおいてその基準をクリアしている。
だが、実際の着用では、「ツワモノ」たちには充分な消臭体験が感じられないことも事実だった。
アダチがずっと持っていた課題とは、「当社の消臭靴下はデータこそ出るが、どんな人でも実際に着用するシーンにおいて100%確実に臭わないものとは言い難い」ことだった。
素材提案
2018年5月に、ある糸商(素材の商社)から新素材のプレゼンテーションを受けた。そこに今回のキーとなる、消臭の考え方があった。
素材見本と、紹介パンフレットに「汗臭や加齢臭などと呼ばれる悪臭カテゴリーは複数の水溶性臭気成分で構成されており、特定の臭気成分のみを除去しても効果が実感されにくく、同時に複数の臭気成分を消臭し、多彩なニーズに対応する加工性が必要とされる」とあった。世に多く出回っている消臭は、例えば汗臭では3大臭気の臭気成分に特化し、試験もそれに沿ってなされる。
だがこの考え方は、そもそも汗臭とは「生活臭」、物質の消臭だけでなく、それらが様々な条件で混じり合ったそのものの臭いを消すという発想だ。
「生活臭に対応した糸」。なるほど、この考え方は共感できる。アダチはこの時そう感じた。
プレゼンテーションの最後に、「試しに、この試供品を使ってみてください」とその素材を使用した靴の中敷を渡されたので、しばらく自身で試してみたが、実感としての効果は非常に良くこの素材に大いに期待が持てた。
同素材の中敷の件もあり、この素材に可能性を感じた我々は、早速タビオのものづくりに向くであろう素材をいくつか選び、試作の糸を提供してもらった。
編み上がったあと、期待を込めながら実履テストと汗臭の臭気テストを行った。
だが、期待に反して、試験データも、実履きの官能試験も当時から当社で展開しているものには敵わなかった。
靴下としての品質的にも、少し「コシ」が弱く、長期間履くとつま先が「白化※」したので、それらを改善したものと、消臭性に関してこうしたらどうかとファーストサンプルの検証を元に、改良版の素材を更に数種類提供してもらった。
(※白化・・・着用時の摩擦により、繊維が裂けて毛羽立ち等の要因で生地が白く見える現象)
セカンドサンプルもサードサンプルも、毛羽立ちやコシこそ改善されたが、肝心な「消臭性」が上がらなかった。毎度数人で着用しては、「どうやった?」「臭うか、臭わんかでいうと臭いました」「俺もや」という会話が繰り返された。
これもダメか・・・。希望が見えかけたこの企画はまた振り出しに戻り、しばらく足踏みが続いた。
「ツワモノ」との出会い
頓挫した「生活臭に対応したアプローチ」から半年ほど経った頃、全く別のルートからアダチの消臭に火が付く出来事があった。
タビオ社内の営業マンが、フラッとアダチに雑談しにきた。
「僕の足だと、この靴下臭うんです・・・」
同世代で、普段から仲がいい同僚の営業マンだ。足元を見ると、当社の消臭靴下を履いている。話を聞くと、この営業マンは最近担当店舗が全国に広がり、出張の機会が増えた。その際にお気に入りのこの商品をヘビーローテーションしていると、ある日妻が一緒の洗濯機に入れてくれなくなった、とのことだ。
実際にアダチがその靴下を嗅いでみた。とんでもない「ツワモノ」だった。
ここから、このツワモノを被験者に、「こいつがどれだけ履いても臭わない靴下の完成」をゴールに、様々なサンプリングがスタートした。
まずは当社の消臭に優れている商品を全て試した。テスト方法も、なるべく「実際の靴下を履く生活」に合わせるために、出勤前に朝履いた後は夜帰宅するまで、一切仕込みは無しだ。
一日中着用した靴下を、翌日に密閉した状態でアダチとツワモノの二人で実際に嗅いで品評会をする。一日に1種類しか試せないので、数週間に渡りテストを繰り返した。
自社商品だけでなく、他社商品や雑誌の特集ランキングで上位の商品も、手当たり次第試した。
結果、どれも臭かった。
まさかこれほどのツワモノとは。想像以上だった。
このテストを繰り返すうちに、目指すコンセプトが明確に固まっていた。
「データではなくて、実感できる消臭靴下で1番のものをつくろう」
「臭いの質が違う」
当時の開発秘話を二人に聞きに行くと、すぐに理解しがたい言葉を発した。
「あらゆる靴下を試したが、わかったことがある。足の臭いにも種類があって、それぞれ臭いの質が違うねん」
臭いを嗅いだ時の不快感が、数種類バリエーションがあると言うのだ。曰く、突き刺すような臭いもあるし、牛乳を拭いた後のフキンのような「面」で攻めてくる匂いもある、と。
二人自身この臭いの質について、はじめはわからなかったと言う。何度も試験を繰り返し、嗅ぎにいく中で、「テイスティング」していく中で気づいてきたと言う。
「科学者だったら、『この臭いはこれが要因』とすぐ特定できるのかもしれないが、何せ俺たちは素人。でも『張り手や打撃を受けたようなジワっとくるもの』と『刃物で刺されたような、鼻に穴空いたんちゃうかと言う一瞬の破壊力のもの』があることに気づいた」と。
臭いにも、「味がある」と言う。ツワモノが、「最近の僕は『ハーバル気味』なんですよ」と笑う。
実感
ツワモノという最高の協力者 兼 被験者とタッグを組んだアダチは、それからも様々な社内社外含めた既存商品や試作品を履いては嗅ぐテストを繰り返していた。
はじめの相談から半年ほど経った2019年7月、ようやくツワモノの足でも少し実感できるサンプルが出来た。その素材こそ、1年前に頓挫した「生活臭に対応したアプローチ」の素材の応用だった。
ただし、感覚値で言えば10段階の7くらいで、10点満点にはまだ至っていなかった。
(ちなみにツワモノが履くと、他のものは0~2レベルの論外とのことだった)
ツワモノでも体感できる程度には臭いを抑えてくれるので、十分商品化してもある程度の勝機はあったが、アダチはそうしなかった。
「ここまで来たなら満点を目指す!」
残り3割の完成度を高めるために、糸商や紡績メーカーに優良だったサンプルたちの「臭いの質」の違いを説明した。優良サンプルは、それぞれ残留していた「質」が違ったからだ。
それらを科学的に調べてもらい、アンモニア系の臭いの「質」は類似しているが、酸系の臭いの「質」までは解明できなかった。だが今回のテスト素材は現状では乳酸と酪酸の消臭効果が低いことが判明した。もしかしたら、この2つを追求できれば完成系なのではないか――。
ところで、化学の分野には全くの素人の二人が先方に伝えるときは、あくまで抽象的な伝え方にならざるを得なかった。例えば「酸っぱい臭いが残っている」とか、「土っぽい臭い」とか。それでもこちらの話を真摯に聴いてくれ、改善方法を提案してくれたことが今回の企画に繋がった。
機能性と靴下として成り立つことのバランス
70%の完成度まで達したものの、また足踏みをすることになった。
先の改善点が見つかったが、どんな素材や加工方法を試しても、ツワモノ攻略まであと3割が進まないのだ。
他に有効な素材はないのか。組み合わせの相性もあるのか。素材の特性でこれ以上限界とするなら、染色の時に特殊な加工をするのはどうか。(ただし、その効果は一度洗って無くなるようなものではなく、半永久的に続く必要がある)
そんなテストを繰り返しながら、同時に並行して「ツワモノ」は試し履き試験の対象を消臭性を謳っていないものまで広げて、あらゆる試験サンプルを生産し続けていた。
そんな時、また新たな気づきがあった。「質」の違いは、更に細分化されて「ゲージの差」と「靴下の表と裏の臭いの質」がありそうだ、と。
ゲージの差、すなわち生地の厚みの違い。もう一つは表と裏の差、靴下の着用時には靴→靴下→足と、着用された靴下には2面の空間の違いがあり、その両面でそれぞれ「臭いの質」が違ったのだ。
それだったら、靴下を成型する2種類のうちの裏糸、肌側に挿入される伸縮糸も「質」に合わせた消臭を行わないとならない、と。
実はそれまでに表糸も裏糸も消臭糸を入れた試作品もツワモノがテストしたが、あまり良好な結果ではなかった。今振り返ると、両面とも同じ質が原因と思っていたから。ところが、2面の空間の「質」が違ったからだ。
男気
2面の空間の質という新たな課題を解決するために、再度様々なところに相談をした。
そしてある特殊な裏糸を扱うメーカーに出会った。ただし先方からしたら、当社の別注ではなく先方の手張りの素材を使って欲しい旨が前面にあった。でもそりゃそうだ、先方はわざわざ別注ではなく自身のところで管理する既存の糸を採用して欲しいし、自信も実績も十分な消臭データが出るからだ。
だがアダチは、それだけではダメでどうしても別注で素材設計を更に一捻り加える必要性を感じていた。質×空間の違いを解決するには、それぞれ違う質の消臭効果がある靴下をつくる必要があるからだ。我々がつくるのは、データではなく実感できる消臭靴下なのだ!
熱心に先方にコンセプトを説明しても、「それはわかる、でもうちでは取り組めない」と商談は難航した。それまでの事前やりとりでも厳しそうな雰囲気もあったので、半ば諦めかけていた。
だが、最後に見せたあるものが、先方の心を動かした。
それまでツワモノと一緒に取り組んでいた、数十を超える着用サンプルだ。
テストしてきた軌跡のサンプルを、実際に嗅いでもらって、これまでの研究の経緯を話した。
それを目の当たりにし、話を聞き、「1年半もかけて、こんなことをしていたのですね・・・」と先方はとても感動してくれた。
その後も、しきりに「1年半もかけて・・・」と何度も感服してくれた。
先方曰く、この業界は「消臭」を謳いたいが為にその素材を使うことも少なからずあるのに、ここまで本気で取り組んでいるタビオに感動した、と。
それに心打たれ、商売云々というより、先方の男気で一緒に取り組みをしてくれることが決まった。
もう一つの要素
商談後、すぐに試作糸をつくってもらった。早速サンプル作成し、例のごとくツワモノの着用試験に進む。かなり良い出来だった。だが、9割なのだ。あと一歩足りない。
同時にサンプル作成した、ビジネスソックスより少し中厚のミドルゲージ生地は臭いに関しては満点の出来だった。
これは「表と裏の質」と同時期に気付いた「ゲージ(厚み)」の差から来るものと推測できた。
その際の検証結果と考察では、生地が薄手のビジネスソックスよりカジュアルソックスの中肉の厚みの方が生地の厚み=素材の使用量の影響からか、良好な結果が出る傾向がわかっていた。
しかしアダチは、薄手のハイゲージビジネスソックスにもこだわりたかった。ミドルゲージは靴下の柄のデザインの問題もあるし、近年亜熱帯のような気候になりつつある日本で履くことを考え、薄手のビジネスソックスも発売したかったのだ。
ハイゲージのソックス は自身が描く満点ではない。
異種混合タッグ
いつも不思議なタイミングで、奇跡は起こる。
たまたま、新素材の提案で顔馴染みの紡績メーカーの素材提案があった。
その中で、そのメーカーの加工に更に強力なものが出来たと提案が舞い込んできた。
しかし、そのメーカーは、そのメーカーの自前の素材に加工をすることがこれまで前提だったので、今回の企画で使うには無理だろうと思っていた。
だが、たまたま別日に同じプレゼンを受けた今回の取り組みをしてくれているニッターが、そのメーカー担当者に今こんなことをやっている、加工だけになるがお願いできないかと依頼し、サンプル程度にやってくれることになった。
結果、ようやく、満点のものが出来上がった。
それだけでなく、この取り組みに共感してくれ、加工を担ってくれることになったのだ。
ようやく、日の目を見ることになったのだ。
この商品を担うメーカーは本来の本命とは違うことをそれぞれ担ってくれることになった。
このような、異種混合タッグが実現することは業界的にも他に例がない。
「データではなく、実感できる消臭靴下」
泥臭いゴールへの執念が、世の男性を足元から支える靴下をつくりあげた。
商品URL
https://tabio.com/jp/Socks_that_never_smell_TabioMEN/2021/10/27/