顔自動販売機 (バレエショートショート)
奨励さんがレッスン場入り口の前で大きな箱を抱えて立っている。藍は身構えた。
顔自動販売機だよ、バレエレッスンに試しに使ってみて
そんなものに頼らなくても大丈夫です
待てよ、そもそもバレエには不可解な言葉が多いだろ
顔をつけろ、顔を残せ、顔は最後にまわせとか。足なら背中から伸ばせ、首なら、くびっくびっと連呼されるとか。これは最新のAIを採用している。購入したら役ごとに顔つきも足さばきも変えられるぞ。オデット用、オディール用、キトリ用…希望のボタンを押すと役になりきれるという優れモノだ。透明のマスクをつけて踊るだけ。薄いAI回路が仕込まれているだけ
後輩の一人が財布を出した
ねえねえ、1つおいくらですか?
3000円だ。安いだろ。それで30分もつよ
その生徒は財布をしめて去った。藍は奨励さんに言った。
演目によっては3時間舞台に出ずっぱりなのに、そんなの役立たずだわ
肩を落とした奨励さんは鬼のような顔をした先生に奥の部屋に連行されていった。
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たらはかにさまの企画に参加中です。
バレエを知らない人は、レッスンで使われる独特の言葉に驚かれると思います。顔をつけろ、顔を残せはポーズに余韻をつけるためです。観客を夢中にさせるための配慮が全世界共通で細かく決められています。同じ踊りでもダンサーが違うとまったく別の踊りに見える。振付師やダンサーの腕の見せ所でもあります。
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