おうさまばあちゃん (ウミネコ文庫応募作品)
きのうのおひる、さきちゃんのおかあさんは赤ちゃんをうむために、にゅういんしました。おとうさんもつきそいに行きました。家の中にはだれもいません。
そのため、遠くからばあちゃんが、いそいで、さきちゃんの家に来ました。そして、さきちゃんのために、ばんご飯を作ってくれました。
でも、さきちゃんは、おばあちゃんをよく知らなくて、こわかった。おまけにだいこんや、じゃがいもが茶色くなったおかずは好きではありません。ハンバーグもあちこちから玉ねぎがはみ出ていて、ぜんぜんたべられません。おこられるかと思いましたが、ばあちゃんは何もいいませんでした。
「さきちゃん、みかんなら食べれるかい」
「うん……」
ばあちゃんは、かばんをあけて、さきちゃんの手にみかんをひとつ持たせてくれました。さきちゃんはみかんも食べられなくて手で持つだけでした。そして、おかあさん、早くかえってきて、おとうさん、早くかえってきて、とばかり思っていました。
ふたりきりのさみしいばんご飯を終えたあと、ばあちゃんは、にわに出ようとさそいました。いつのまにか、ばあちゃんのはなとあごの下にひげが生え、あたまにはきんいろのかんむりをかぶっていました。ばあちゃんは、ふしぎがるさきちゃんに言いました。
「よぞらを見上げてごらん」
頭の上に、お月さまがいました。まんまるいお月さまでした。さきちゃんは、もっていたデザートのみかんをお月さまに見せました。すると足元から声がしました。
「りょうほうとも丸いね」
さきちゃんは、びっくりして下を向きました。
「いいですね。こちらからながめると、お月さまと、みかんが二重になってきれいです」
足元には、たくさんのありが並んでいました。さきちゃんが目を丸くすると、ばあちゃんは、笑いました。
「こんやはまんげつ。わたしはね、じつは、おうさまばあちゃんだ。おまけに、どうぶつと話せる、マホウをつかえるのだ」
「おうさまばあちゃん? マホウ?」
「おうさまなのは、こんばんだけ。マホウが使えるのもこんばんだけ。さきちゃんにどうぶつたちと話せるマホウをかけたので、どうぞ」
さきちゃんは、ほんとうかしらと思いながら、ありがよく見えるようにしゃがみました。
「ねえ、あなたたち、どうしていつも、いちれつになって歩くの?」
「よくぞ聞いてくれました。さきちゃんをびょうどうに見るためにいちれつに歩くことになっています」
「へえ、知らなかった」
さきちゃんのそばに、ワンコのたろうくんもいたので、ついでに聞いてみました。
「わたしを見ると、いつもしっぽをふるのはなんのためなの」
「さきちゃんが幸せになるための犬のおまじないです」
のらねこのピンクちゃんも話しかけてきました。
「いつも、手をふってくれてありがとう。さきちゃんが幸せになるように、しあわせをよぶ、まねき猫のまねをしましょう。にゃあん」
どうぶつたちは、ばあちゃんに向かって頭を下げました。
「おうさまばあちゃん、はじめてさきちゃんと、お話しができました。このたびは、ありがとうございます」
ばあちゃんは、ゆっくりとうなずきました。 さきちゃんは、ばあちゃんを見上げてしつもんをしました。
「わたしが、いつお姉さんになれるか、マホウでわかる?」
「あとで知る方がうれしいものはわかりません」
「そうなの」
「そういうものなのよ」
今度は上から声がかかりました。なんと、お月さまからでした。
「おうさまばあちゃん、さきちゃんをつれて、あそびにきてください。まんげつのおどりを踊ってくれたら、すぐにこちらにつきますよ」
「わかりました。みんなで踊りながら月へ行きましょう」
おうさまばあちゃんは、さきちゃんからみかんをうけとり、ひとふさずつ、みなで分けて食べました。あまずっぱいみかんは、みなのきもちをひとつにしてくれました。それから輪になっておどります。
どっこいしょ の どっこいしょ
さきちゃんは、手を上にあげて、踊りました。ありさんたちや、ワンコたろう、のらねこピンクのほか、うさぎ、にわとり、ねずみも出てきました。ぼんおどりのうたにあわせて、かたあしをひょいとあげたり、とびはねたりします。
おうさまばあちゃんも どっこいせ~と歌いながら踊りました。
みなのからだがゆっくりとうきあがったかと思うと、もう月の世界に来ました。
月の地面はみかん色でした。踊っているうちに、地面がなみうちながらひいてきました。おうさまばあちゃんは言いました。
「ここから青いちきゅうが見える。まんげつの夜は海水で満ちている。そういう夜は、赤ちゃんがたくさん生まれるよ。さきちゃん、もうすぐだよ。もうすぐ生まれてくるよ」
さきちゃんは、みかん色にそまったおうさまばあちゃんの顔を見上げます。
「もうすぐお姉さんになれるのね。すてきだなあ」
さきちゃんたちは、お月さまに来てくれてありがとうとおれいを言われました。それからまた踊りながら地球にもどりました。
おうちに帰ったらすぐにばあちゃんのけいたい電話がなりました。お父さんからでした。
「さきちゃん、おめでとう。おとうとができたよ。さきちゃんは、お姉さんになったよ」
さきちゃんは、ばあちゃんにおねがいをしました。
「おうさまばあちゃん、マホウで今すぐびょういんに連れて行って。赤ちゃんを早くみたいの」
いつのまにか、ばあちゃんのひげはなく、かんむりもなくなっています。元にもどったばあちゃんは、さきちゃんの頭をやさしくなでました。
「マホウはおわり。タクシーを呼んで、のっていきましょう。タクシーが来るまでごはんを食べておきましょう」
さきちゃんは、にんじんやじゃがいもが茶色いおかずも、たまねぎが入っているのが目立つハンバーグもおいしいと思って食べました。おねえちゃんになったので、やさいも食べられるようになったはずです。ばあちゃんは、うれしそうに、にこにこしていました。
やがて、タクシーがきました。
おててをつないで乗り込み、病院に向かうふたりを、動物たちとお月さまがいってらっしゃいと見送ってくれました。ばあちゃんのマホウがとけて、動物と、はなせなくなってもだいじょうぶ。みんながさきちゃんのことがすきなのは、むかしからみらいまでずっとそのままなのです。これからは、あたらしく、さきちゃんのおとうとも、なかまになるでしょう。
了