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ピエール=オーギュスト・ルノワール / メトロポリタン美術館
穴の中の君に贈る (ショートショート)
私は拉致されて暗い穴の中に閉じ込められた。かばんもスマホも取り上げられ、何もないところに放置されている。
「助けて! 家に戻して!」
泣いたりわめいたりしたが、だんだんと弱ってきた。だって、水も食べ物も何もないのだもの。ああ、お父さん,お母さんに会いたい…畜生、犯人のヤツ…。
どうも私を閉じ込めることで満足したらしく、犯人も穴に入ってこない。なんとか脱出したい。穴の内側をガリガリとひっかいていたら、何かの突起がある。私は力を振り絞って思い切り押した。
ギョギン
すると部屋というか、穴というか、この世界全体が逆にひっくり返った。気が付けば私は明るい部屋にいて、目の前で何かが入った袋を見ている。袋はもがいている。どう見ても人間の形だ。直感でこいつが私を閉じ込めたと感じた。穴の中のボタンを押されるとまた反転するだろう。私はそばにあった金づちで念入りに袋ごとそれをつぶした。どうやって帰宅したか覚えていないが助かった。
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