糸工ちや(べにわかれちや)

心の扉を叩く音に擬音があるならそれは「トクン」であって欲しい。

糸工ちや(べにわかれちや)

心の扉を叩く音に擬音があるならそれは「トクン」であって欲しい。

最近の記事

投げられたお題で短編書く試み:2(1)

上  断れば良かった。ここに来て、また後悔している。俺の人生は、いつもこうだった。昨日の夜から半日をかけて空港に降り立った俺は、10日分の大きなキャリーバッグを引きずるように外に出た。 「っっつ!!」  予想を遥かに超える強い日差しと、地面から上がる熱波に思わず声を上げる。半袖は逆に肌が焼けて辛いと聞いていたが、こういう事か。納得しながら日陰に逃げ込む。 「おうおう、来たな来たな~!」  連絡を取る前に羽織る物をとキャリーバッグを開封している俺に、ハイテンションでかかる声が

    • 推し活が止めれない話

      『わたしは、』 「ありがとうございました~」  この人、前は二箱ずつ買っていってたのに最近一箱だけになったな。自動ドアを出て車に乗り込む中年男性を目で追いながら、そんな事を思った。乗り込んだ車は白い軽自動車。よれたスーツに身を包んだ疲労顔のおっさんは、素早く駐車場から出ていった。  煙草最近値上がりしすぎだもんね、こんな時間までお疲れ様。 「けいちゃん、そろそろ休憩取って」 「あ、はい」  時刻は深夜の2時近くを指していた。 「あ、涼しい」  煙草を吸うために、バックヤー

      • 霊チェキ屋

         このアイデアを、ゲーム化する前提でストーリー仕立てにしました。  ゲーム導入部分を想定しています。 --------------------  僕はいつにも無く荒れていた。そして友も同じように。 「腹の虫がおさまんねえ、次の店行こうぜ」 「いいね、僕もそう思っていたんだ」  普段は軽く引っ掛けて飲む程度の二人は、もう日付も回ろうと言う時間にも関わらず次の愚痴会場を求めて彷徨う。 「大体、おめぇの作った衣装の良さをわからない会社なんて辞めちまえばいいんだ」 「そうだよ

        • 投げられたお題で短編書く試み : 1

           ある夏の日、夏季休暇と言う学生の特権を謳歌したがっている私は雨の中課外授業から帰宅し、玄関の見慣れない靴で全てを察した。 「ハイちゃん!おかえり!」  リビングから走ってきた少女は両手を広げて私を出迎える。 「えっ!?ゆーちゃん!?おっきくなったねえ!」  1年ぶりに見る従姉妹は、一瞬誰かわからない程に大きくなっていた。この年齢の子供というのは、本当に成長が早い。 「…なんか親戚のおばちゃんみたいな事言ったな私…あっまってまって濡れてるから抱っこまって」  少し自己嫌悪する

          本人たちの許可を得ないスタイル。

          誰とはいいません。 「え、なに」 眠そうな顔をした彼が、すこし驚いて目を軽く見開きながらこっちを見る。トレードマークのサングラスを今は外していた。いかつく見えてしまうそれを取れば、いつもの優しい目だった。 シートを倒して眺めていた携帯の画面が少し見え、バスケの試合結果をみていたことがわかり少し安心する。 「いや、別に」 「え、なんや」 服の裾についていた糸くずが気になって取ったら、服まで引っ張ってしまった。ただそれだけなのだが。 「なんでもない」 なんだか構ってもらえるのが

          本人たちの許可を得ないスタイル。

          クリエイターズマッチングプロジェクト:コトバヲトリモドセ(ボツ案)

          前回同様ボツです。 「ねえねえこれみて!」 「ああそこ足元!」 「うぉっとっと、みてみて」 「今度は何拾ってきたんだよ…」 「これこれ!『慣用句辞典』!」 「!?すげえ!!古代の言葉勉強出来るじゃん!」 「でしょでしょ!ねえ一緒に見ようよ!なになに『指を咥える』…って」 「…意味の部分黒塗りされてんじゃん、しかも全部」 「…もうなんでー!?単語の意味はわかるのにいい!!」 「ま、まあそういう言い回しがあったっていう勉強は出来るじゃん。『指を咥える』」 「そうだけど…。どうい

          クリエイターズマッチングプロジェクト:コトバヲトリモドセ(ボツ案)

          クリエイターズマッチングプロジェクト:コトバヲトリモドセ(ボツ案)

          「任せたわってこいつ…」 私はパソコンの画面の前で前髪を掻き上げ、そのままガシガシと頭頂を掻いた。 クリエイターズマッチングプロジェクト。「夜が明けたらひとりじゃない」という柱のもと、誰かが絵を描き、それを見た人が曲を作り、それを聴いた人が歌を歌い、最後に誰かが短編小説をつける。テーマは「20XX年」なら何でも良いようだ。 バトンを繋ぐことで、各分野で燻っているクリエイターを引っ張り出そうという企画だ。 数日前に話を持ちかけて来たこの男は、あるイラストを送ってきた。 少女

          クリエイターズマッチングプロジェクト:コトバヲトリモドセ(ボツ案)

          20代中頃の俺へ

           昔から、本気で頑張れない人間だった。小中学生の時の夏休みの課題は夏休み最終日に徹夜してやってたし、持久走なんて開始2kmの地点から歩いてしまうような奴。頑張ってる人を馬鹿にする事もなければ、だせぇと思ったこともない。ただ「すげー」とだけ。  でも、自分は全力を出さない。  ある時、本当に本気で取り組むものができた。それ以外のことは全部やらずに、それの事だけを考えた。一度火の着いたロケット花火の様に、何の疑いも迷いもなくそれに打ち込んだ。  そして、挫折した。  その時

          29歳になったばかりの私へ

           今の私は幸せです。  31歳になったばかりの私へ。  幸せですか?そうであることを祈ります。  日記です。

          29歳になったばかりの私へ

          思うこと

           暑い。  寝て過ごしたい。  働きたくない。  考えたくない。  暑い。  暑い。    これがしたくない、は思いつくのに、これがしたい、は思いつかない。  たぶん、暑さのせいだ。  たぶん、夏のせいだ。  きっとそうだ。  二十代最後の夏が終わる。

          笑うために笑う

          こんばんわ。糸工ちや(べにわかれちや)といいます。 ※この話は2011年に起こった東日本大震災の被災地の話を含みます。  2011年、私にとってたくさんの事が起こった年でした。  内定通知、東北地方太平洋沖地震(3.11)、内定取り消し、嘘、裏切り、そして旅。これらの全てが今の私を形成し、私である証明でもあります。  今思うと、本当に無謀で、馬鹿で、でもよくやったと褒めたくなる、そんな10日間の旅の話をしたいと思います。 『生きたくないな』  2011年の12月中頃。