「Aro/Ace男性のモデルケースは?」れいすいきさんが語る“これからの人生幸福論”「ひとりで生きていくには…」|case.0 後編
「絶対1人で生きていく、というつもりはないのですが、なんとなく1人でこのままずっと生きていくのかな、とも思っていたりします」
淡々とこれから思い描く生き方についてそう語るのは、れいすいきさん。noteやtwitterなどでAro/Ace界隈の方と交流を行う会社員の彼に、
後編では「Aro/Ace」のロールモデルや生き方といったテーマで話を聞いた。(前編はこちら)
Q6 今、幸せですか?
――今とこれからの話を聞いていきます。まず、今、幸せですか?
そうやって、まっすぐ聞かれると答えづらいものがありますね。
まず、いわゆる“世間的”(手で“”のマークを作る)には、独り身の男性で幸せには見えていないんだろうなという自覚はあります。でも、それに自分の幸せの感情まで引きずられる必要はないよな、と思っています。
今、自分は生きている時間の多くを仕事に使っていることが多いです。忙し目でいろいろありますし、それなりに楽しい。そしてたまに旅に行けたりする。そういう意味で今は自分の中では幸せですね。
ただ、ふとした瞬間に「自分、まだ何も成し遂げてない」って、目指すべき将来像が偉人レベルに肥大して脳内を占領するときがあります。冷静になって、「いやいやそんな何かを為す人間でもないだろ」とツッコミを入れるんですが、ときたま、そういう将来への不安を抱くことはありますね。
Q7 パートナー、家族についてどう思うか?
――パートナーがいること、家族がいることと幸せであることの関係はどう捉えていますか?
幸せであるための十分条件ではない、と思っています。結婚=幸せではない。
僕自身はひとりでも幸せに生きることができるのではないか、と信じています。信じているとしか言えないのは、30年近くしか生きていないので、幸せな一人の人生の終わりまでをまだ生き終えていないので、そういうしかない(笑)。
ただ、生き終えて、幸せを判断するのは誰かというと生きている人たち。幸せな一生だったね、とか、可哀想な最期だったとか言うんですけど、亡くなった人の感覚はどうだったんだろうと考えるんです。そう思うと、ヘテロで結婚して子供がいるおばあちゃんで周りからは幸せと見られていても本人は、弁護士になる夢を家庭のためにあきらめた、だから人生をやり直したいと思っていた…とかってことがありうるわけじゃないですか。
パートナーがいる良さももちろんわかります。「幸せ」で言えば、確認しあえるのは大きいですよね。
ひとりだと「あれ、幸せだっけ?」なんて考え出すと「大丈夫」とすぐそばで言ってくれる他人がいない。そう思わせてくれる存在がいないことで、どんどん「幸せじゃない…?」と思って負のスパイラルに入ってしまう可能性はあると思います。
でもパートナーがいて、場合によっては子供がいて、となると、どこかしらで幸せを視覚的に確認できる。ちょっと生臭い発想ですが、「未婚だったり、子供のいない他者と異なり、自分は結婚していて子どもいる状態なんだ」みたいに、自分のステータスに酔って、無意識な比較思考で幸せを感じる人もいるかもしれませんね。これは裏を返せば、Aro/Aceの方の中には「結婚もしてなくて、子どももいない…」というように、知らずのうちに他者と比較して劣等感を抱いてしまう負のスパイラルに陥る人もいるのかなーと。
Q8 おすすめのコンテンツ、アカウントなど
――この記事を読んでくださっている人はAro/Aceにどこかしらひっかかりがある人も多いと思います。何かおすすめのコンテンツやアカウントはありますか?
現在は休止中なんですけど、「夜のそら」さんのnoteですね。専門的にフェミニズム運動やAコミュニティ(Aro/Aceに関するコミュニティ)について研究をしていて、僕も読みながら全てをわかったとは言い難いです。でも文章1つ1つに現れる夜のそらさんの心情描写、そして表現が押し付けがましくなく、でも心を“すくわれる”、そんな文章なんですよね。
夜のそらさんのnote
――ドラマや映像作品はどうですか?
NHKで放送されたドラマ『恋せぬふたり』もオススメです。Aro/Aceが直面する出来事、あるあるを盛り込みながら、恋愛感情のない2人のパートナー関係がどう築かれていくのか、が描かれていて、それこそ「幸せのカタチ」についても触れられています。
ちなみに放送後の座談会にファン代表、じゃなかった当事者の一例として登場しています。他の方の感想などもあるので、読んでみてください
『恋せぬふたり』座談会
この作品の脚本家の吉田恵里香さんは『ぼっち・ざ・ろっく』という作品も担当していました。
恋愛をしない人、ぼっち…世間ではどこか「不幸せ」とされがちな存在ですが、その良さやさまざまな側面をじっくり見つめる吉田さんの視点があったからこそ、Aro/Aceを単に面白がるのではなく、その恋愛的指向、性的指向を有する人たちの苦しみや幸せって何なんだろうと突き詰めた作品に仕上がったのかなと思います。もちろんAro/Ace当事者と関わりの深い「As Loop」さんの監修もあったことも大きいのかなと。恋愛ってしなきゃダメなのかな?と思っている人にはぜひ見てほしいですね。
Q9 理想とするロールモデル、今後どんなふうに生きていきたいか?
――「恋せぬふたり」のようなパートナー関係がれいすいきさんのロールモデルだったりしますか?
うーん、どうなんでしょう。とてもいい関係だなとは思ったんですが、(自分自身は)「この人と一緒に暮らしたい」なんて思ってもらえるような人間ではないし、誰かと一緒に住むのも大変そうだなと思いました。
――ロールモデルはありますか?
SNSなどを見ていると、AroAceの方で阿佐ヶ谷姉妹みたいな関係が理想という方も多かったりしますよね。なんとなくわかるのですが、自分は男性で、なんだか同性2人の“男版阿佐ヶ谷姉妹”みたいなのが想像できないですね。
――1人で生きていくという選択肢もあります。
ありますよね。もう絶対1人で生きていく!みたいなつもりはないのですが、なんとなく1人でこのままずっと生きていくのかなとも思っていたりします。もちろんパートナーがいたらいいとも思っています。その場合、こういう暮らしをしたいという強い意志や条件はなくて、こればかりはパートナーさんによるのかなと思っています。相手のいないまま、話し合いや理解のないまま、「同じマンションに住む」とか「友情結婚」とかって言っても相手のあることですし。2人であれば2人。3人、4人であれば彼らの間で分かり合い、話し合って決めていけば良いのかなと。
――ただ、1人でずっと生きていくとしたら、寂しくないですか?
もちろん寂しいと思います。でも、それって結婚しても寂しいと思う瞬間はあると思うし、家族に囲まれていてもそういう瞬間はあるはずです。
なので「1人だから寂しい」じゃなくて「1人でも寂しい」ものなのかなと。
さきほど話した、確認し合う相手で言うと、パートナーとは異なりますが、時たま会う友人との関係性はこれからも長続きするといいなと思っています。
Aro/Ace界隈の方はもちろんなのですが、自認する前の知り合いで結婚した人、子どもがいる人でも会ってくれたりする人がいるんです。そういった職場やステータスに関係なく続くつながりというのを大切にしていきたいなと思っています。
以前、このまま一人で生きていくとして老後にいくらかかるのか、算出したことがありました。
65歳を過ぎた自分の生活を想像した時に、友人と会うのは “週に1回、月に多めに5回” くらいなのかなと思ったんです。毎日毎日誰かと会うという生活も自分からすると疲れてしまうし、かといって、誰とも会わずにずっと過ごせるほど孤独を愛しすぎているわけでもない。
会ってもらえる関係ってシビアに言えば「メンテナンス」も必要だと考えています。20年ぶりに会うとかって結構怖いじゃないですか? なので、いろんな人に2,3年に1回は会うようなイメージで、週に1回、誰かと会う。寂しさによってはもしかしたらそれ以上会うこともあるかもしれませんが、そんなペースでの人付き合いをする老後の生活を想像しています。
――1人で生きていくと何が必要か、そういったイメージを持っているんですね。
とはいえ、パートナーや何かしら関係の定義がないと、人ってどこまでも遠くへ離れていきそうだし、そうすると「何かあった時に頼れる人」がいなくなる…と将来の身の回りについて不安になっていきますよね。他のAro/Aceっぽい人たちはそんな不安にどんな考えでいて、どんな人生を歩もうとしているのか、というのは関心があり、このインタビュー企画を始めました。
Q10 メッセージ&その他の追加の質問
――ここに来て、インタビュアーと答えている自分が同一人物であることが隠しきれなくなってきました。では最後にAro/Aceっぽい方たちにれいすいきさんが伝えたいことを教えてもらえますか。
伝えたいこと、メッセージって言われても困っちゃうな…(苦笑)。
用意しとけって話ですよね。うーん、「他人の評価を気にしすぎるな」とは伝えたいですね。
――それはなぜですか?
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