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浮気をポップ中のポップに落とし込むsumika『Lovers』

 sumikaは凄い。本当に凄い。もっと評価されていい。もっと国民的なバンドになっても良いと思う。あそこまでポップへ真摯に向き合っているバンドもそうそういない。斜に構えてのポップでもなく、芯を捉えて真っ向勝負のポップさを逃げずに突き通している。その姿勢には思わず背筋が伸びてしまう。

 例えば、アニメ映画版『君の膵臓を食べたい』の主題歌。爽やかなメロディに真っすぐな歌詞が響く。sumikaにカルピスウォーターの依頼が来てないとか嘘だろ?

 例えばアニメ「美少年探偵団」のオープニングテーマ。自分たちの楽しくて幸せで思わず歌ったり踊ったりしてしまう色をこれでもかと出し切っている曲。アニメとの相性も◎である。

 そう、例えるならばsumikaの曲は完璧な陽キャタイプなのだ。しかも、陰キャにもしっかり優しいタイプの陽キャ。最強の陽キャである。一番ズルいタイプである。 

 

 さて、そんなsumikaのポップさを語るうえで避けられないのが、この代表曲『Lovers』である。

 TSUTAYAのCDレンタルコーナーで流れていて一目惚れならぬ一聴き惚れしたのが最初の出会い。そこからsumikaのことを知っていくのだが、「え、sumikaってどんな曲歌ってるの?」と聞かれたら名刺代わりに出す一曲。とにかく聞いて欲しい。このポップさこそがsumika。

 ポップな曲というのは意外なところにも響くものである。私の友だちに「ごめん別の人を好きになっちゃったの」パターンで振られた男がいた。その男がこのsumikaのLoversが好きだと話すのだ。「この曲の歌詞に共感する」と。凄すぎるな、sumikaの陽キャパワー、と言いたいところだが歌詞に共感となると、また別の話のように思える。

 そこで気になる私は歌詞について調べてみることにした。

涙の訳を整理したくて
B5の紙に書き出してみたんだ
辛さ悲しさ感情いろいろ
滲んだインクの先に僕が透けていた

 なるほど、爽やかなメロディや歌声に反して、割と後ろ向きな感情を歌っている。更に歌詞を見ていくと。 

口約束の結婚をした17歳の秋には
わきめふらせる事が怖かったんだ
でも今は違うらしい
たくさん比べてほしい
そんで何百万の選択肢から選んでほしい

 この辺りで「どうやら普通のラブソングとは少し違う」ということが分かってくる。そして、それを踏まえたうえでのサビの歌詞。

(ねえ)ねえ浮気して
(ねえ)ねえ余所見して
ずっとずっと離れぬように
(ねえ)ねえふらついて
(ねえ)ねえゆらめいて
ずっとずっと離れぬように


 ああ、これは、友人も共感するのかもなあ、と思わず感嘆が漏れた。君のこと大好きチュチュチュみたいな一途な愛を歌う昨今の中に、浮気やら余所見やら危なげなワードが散りばめられているのだ。だが昭和に良く見られた「三年目の浮気ぐらーい多めに見てよー」的な艶めかしさもなく、カラっと明るく歌い上げている。

 これってめちゃくちゃ凄いことをしているのではないだろうか。ポップさで隠して浮気やらなんやらを歌い上げる、そして誰もが口ずさめるような作品に作りあげるというのは、そんなマイナスの言葉すら呑みこむくらいの大衆性がなければ成り立たない。

 更に、このサビの面白いところが「浮気して」や「余所見して」と言っている癖に「ずっとずっと離れぬのように」と相反する言葉を紡ぐところである。この浮気や余所見という負のワードによって、はなれないで欲しいと言う想いが、くっきりと輪郭を表すのだ。

 そしてサビは最後に

最後の最後の最後にはお願いこっち向いて
(お願いこっち向いて)
こっち向いて笑って欲しいのです
ずっとずっと離れぬように

で結ばれる。

 浮気とか余所見とか出しておいて、最後はこっちを見てほしいと歌う。なんという歪な、けれど真っすぐなラブソングだろうか。これがきちんとポップに受け入れられるように作られていることがまず凄すぎるし、この歌で大阪城ホールが湧いているのも本当に凄い。

 そういえば、友人は未練たらたらで、かつての恋人が戻ってくることを祈っていたらしい。

最後の最後に(あなた朽ち果てるまで)
愛しぬいていきたいと思うのです

 という訳で浮気って言葉を包み込むくらいのウルトラポップのsumikaは本当に誰でも親しめるくらいのバンドだと思うので、まだ聞いたことのない人がいれば是非一度ご視聴ください。

 歌詞も含めて、めちゃくちゃ良いです。

(といいつつ、私がsumikaの中で一番好きなのは、こういうダウナーな曲だったりします。明るいキャラが時折見せる陰の部分。惚れてまうやろ)

 
(こちらは浮気をポップにして歌う国民的バンド)


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