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野球拳は令和にはしんどい
野球拳。
それはジャンケンで負けたものが一枚一枚衣服を脱いでいく余興的ゲームである。
通常のジャンケンとは異なり、「最初はグー。」ではなく謎のリズムと謎のフリを織り交ぜた「やーきゅーすーるならー」という節をプレイヤー同士が歌うことでゲームがスタートする。「こーゆー具合に」「しやしゃんせー」というメロディを互いが続けたあと、「アウト!」「セーフ!」「よよいのよい!!」で互いが「グー」「チョキ」「パー」のいずれかを出し、勝敗を決する。そして敗者は前述したように衣類を一枚脱ぐ。そして片方がギブアップをした段階、あるいは衣類が一枚もない状態になれば負け。
これが古より伝わる一興、野球拳の全容。
なのだが、私は幼い頃からずっと疑問だった。
野球の要素が一切ないことに。
ヒットとかツーアウトとか、言ってるかこれ。代走とか出したか、このゲームの間に。
拳の部分はわかるのだ。ジャンケンは拳の出し合いによって勝敗が決まるから。
だが野球。野球を名乗る行為。
それは果たしてどうだろうか。許し難くはないだろうか。
せめてランナーコーチ。
ランナーコーチがジャンケンのプレイヤーに寄り添うならわかる。
脱いでる時に、片手をぐるぐる回しながら「バックホーム!」
これは野球拳だ。
だが脱ぐだけ。騒ぐだけ。囃し立てるだけ。
野球の名を冠していることを高校球児に失礼だとは感じないのだろうか。
これは、野球に携わる人全てがもっと声を挙げても良い問題だと思う。
ゲーム内でたいして野球の要素が無い、どすけべ大余興に野球の名前を使われているのだから。
本当にどすけべなゲームに、だ。
胸踊らされる最高のスポーツを、こんな淫らがネギ背負ってやってきたみたいなゲームに侵食されている今の状態は、極めて健全とは言い難いだろう。
というわけで、調べてみた。
なぜ、このどすけべ遊戯王オフィシャルヌードバトルに、野球なんて名がついているのか。
そして、判明した。
なんと、野球拳として世間で知られているゲームは、本来の野球拳というゲームの亜種であるということが。
ルール
通常は3人一組による団体戦で行なわれる。双方1名ずつが前へ出て対峙する。行司の「プレイボール!」の掛け声とともに競技開始。
三味線と太鼓の伴奏に合わせて歌い踊る。
「ランナになったらえっさっさ」で相手と場所を移動する。
歌の終盤で「アウト! セーフ!」のかけ声に合わせて、野球の塁審のジェスチャーをする。
「よよいのよい!」でグーを出す。
そして「じゃんけんぽん」の掛け声と共に手を出す。あいこの場合は決着がつくまで「あいこでぽん」と繰り返す。
じゃんけんの勝負が決したら、「へぼのけ、へぼのけ、おかわりこい」(伊予弁で「へぼ」は下手な奴を、「のけ」は「どけ」を意味する)のお囃子と共に負けた者は退場し、次の者に交替する。
2に戻り、一方の選手が全て敗れた時点で3アウトでゲームセットとなる。
一般的に「よよいのよい!」でじゃんけんをすると思われているが、松山で行われる野球拳全国大会の公式ルールではグーを出さなければ失格となる。じゃんけんの手を出すのはその後の「じゃんけんぽん」でお互いが勝負をする。あいこの場合も「あいこでぽん」が公式ルールである[5]。テレビのバラエティ番組などで行われる、最初のくだりだけを歌い即刻じゃんけんに入るようなケースは誤りである。
おいおいおいおいおいおい。
やってくれたなあ、マスメディアさんよお。
正史の野球拳、めちゃくちゃ奥ゆかしいゲームじゃねえか。
3人負けてスリーアウトでチェンジ。
正史はちゃんと、野球の要素もあるじゃねえか。
随分とやんちゃなことしてくれたじゃないの。
奥ゆかしいゲームをお下劣カスタマイズしてくれちゃって。
これは伝統に対する反逆なんじゃ無いですか。
という訳で。
令和の文芸サークル、バケツズが立ちあがろうではないか。
野球拳のルールを令和版にカスタマイズしようと思う。
なあ、聴いてるか、野球拳の発明者さん。
俺がアンタの無念、晴らしてやるからなあ。
まず、ネーミングだ。
問題としては野球の要素が無いのに、野球と名を冠しているところにある。
これは非常にまずい。
令和の今なら、誇大広告として訴えられてもおかしくない。
という訳で令和の時代に野球くらい盛り上がっているもの。
そして、どこか野球よりもオシャレであれば令和感が際立つに違いない。
オシャレ。
シティ。
ポップ。
シティポップ。
シティポップ!!
シティポップ拳。
シティポップ拳だ。
これだ。これが令和だ。
冒頭の「ちゃー!ちゃー!ちゃちゃちゃ!ちゃーちゃらちゃちゃっ♩」も、もっちゃりなので、「ンドゥッ!ンドゥッ!ンドゥッ!フェーンフェレフェレフェーン」に変えよう。
シティポップ拳。
拳。
拳、か。
こうなると拳も少しダサいか。
シティポップパンチ。
シティポップフィスト。
シティポップフェスト。
……フェス。
フェス!
シティポップフェス!
シティポップフェスだ。
野球拳じゃなくてシティポップフェスだ。
「ンドゥッ!ンドゥッ!ンドゥッ!フェーンフェレフェレフェーン」で始まるシティポップフェス。
となると、「やーきゅーすーるならー」は完全に嘘になるので、横揺れしながら「シティポップをすーるならー」となる。横にDJを携えるとより良い。
「こーゆー具合に」「しやしゃんせー」も令和には、そぐわないので「こーゆー夜に」「揺られてたいね」にしよう。
アウトセーフの概念もシティポップには似合わないので、「はにかんで」「またたいて」にして。
よよいのよい!!は、「あの頃みたいに…」に変える。
となれば、だ。
昭和の価値観の匂いたつ衣服を一枚脱ぐなんて罰ゲームはバッドすぎる。
テキーラやイッキも品性に乏しい。
……踊ろう!
曲に身を委ねて踊ろう!!
いや、待て。
ここで、踊ることを強制してしまっては踊りたくないサイドの人間たちはどうする。
それこそ、衣服を無理やり脱がせることやイッキ飲みと何も変わらないではないか。
令和に価値観を押し付けるというのだろうか。
ならば答えは一つだ。
踊っても踊らなくてもいい。
そう、シティポップフェスはじゃんけんをした後に踊っても踊らなくても良いのだ。
自由にすればいい。そこにしがらみも身分もない。
あるのは耳心地の良いメロディのみ。
さあ、始めよう、シティポップフェスを。
会合のちょっとばかしの余興に、シティポップフェスを。
「シティポップフェス」ルール
1名ずつが前へ出て対峙する。
DJの「チュクチュクチューン」のスクラッチとともに競技開始。
音の波に合わせて歌い踊る。
「(前奏)ンドゥッ!ンドゥッ!ンドゥッ!フェーンフェレフェレフェーン」
「シティポップをすーるならー」「こーゆー夜に」「揺られてたいね」
歌の終盤で「はにかんで」「またたいて」のかけ声に合わせて、横揺れをする。
「あの頃みたいに…」の掛け声と共に手を出す。
あいこの場合は決着がつくまで「そう、何度だって…」の掛け声で繰り返す。
じゃんけんの勝負が決したら、踊る。
ただし踊らなくてもよい。
踊っても踊らなくてもよい。
なぜなら、それがシティポップフェスだから……
これである。
これである、ではない。