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松任谷由実『Hello, my friend』が教えてくれた”友達”との”短くて気まぐれな夏”の恋。

 ネットを散策していたら、YONCEがカバーした最高の『Hello, my friend』を聴くことが出来た。

 なんてシティな『Hello, my friend』
 おしゃれな雰囲気を漂わせながら、けれどサビの高音はしっかりと歌い上げる。
 このギャップだよ、YONCE。最高すぎるぜ、YONCE。

 というか、最高の歌い手が最高の楽曲を歌って最高にならないわけがない。
 YONCEという歌手を最大限に引き立ててくれる『Hello, my friend』の強度とは、どれだけ凄まじいものを誇るのだろうか。

 さて、『Hello, my friend』は切なさを抽出して曲として仕上げたような作品である。
 明るい曲調。なのに物悲しいメロディ。そして、お別れした相手に対する「ハロー」という言葉がけ。そこへユーミンの声色が合わさり、友達への”あの夏の恋”を歌いあげる。
 優しさも、切なさも、苦しさも。めぐる夏の度にその重なった感情を想起し、溢れるように一文字一文字を丁寧に。
 『Hello, my friend』は、そんな普遍的な切なさと強さを纏った楽曲だ。
 というか、コンディション次第では本当に泣く。切ない。本当に。

 特に歌詞。歌詞を是非見てほしい。
 天才、松任谷由実の言葉の連なりを。
 本当に素敵な一曲なのである。

Hello, my friend 
君に恋した夏があったね
みじかくて 気まぐれな夏だった

 『my friend』という友達と、『恋した』という恋愛関係と、その一見真反対に思える言葉を行き来する夏があったという歌い始め。最高の物語の走りだし。
 更に、そんな夏を『みじかくて 気まぐれな夏』と表現するのが、いい。
 夏は本当にあっという間で、すごく気まぐれだ。夕立が降ったり、暑さでどうにかなってしまったり。
 そんな夏を一節で表現し切る凄み。

 けれど、ここで一番見てほしい言葉は『Hello』だったりする。
 このハローが、後半にどんどん効いてくる。
 密やかに仕掛けられた時限爆弾。

Destiny 
君はとっくに知っていたよね
戻れない安らぎもあることを 
Ah.....

 ”君”はそんな夏の中で、まるで自分には知らない景色を知っているように振る舞う。この夏や二人の関係性が、簡単に戻ることが出来ないものだと分かってしまったかのように。

 それを『Destiny』、運命だと言い切るのはあまりにも残酷だよなあ。
 ちなみに、ここで運命と言わず英語で訳すところにポップスとしての矜持を感じられる。あくまで、この言葉は歌詞。音に合わせて紡がれる物語であると。

悲しくて 悲しくて 帰り道探した
もう二度と会えなくても 
友達と呼ばせて
 

 そうしてサビ、である。

 ここで訪れる『悲しくて』のリフレイン。二回繰り返すのが本当に素晴らしい。切ない。本当の気持ちは、何度も伝えたくなるし、繰り返したくなってしまうものなんだ、と。

 そこへ続くのが『帰り道探した』なのが本当に、もう。そんな帰り道に”君”がいるわけがない。だけど、”君”の面影や記憶が夏の訪れの度に溢れて仕方がない。バカみたいなことだと分かっていながら帰り道に探す。

 更に『もう二度と会えなくても』『友達と呼ばせて』の切なさ。ここで聴いてる人間は気づく。「この人は、もう会えない人に、ハローと言っていたのか。」と。届くわけのないハロー。入道雲に吸い込まれるように。でも、友達なんだよと。届いてなくたって友達なんだ、と。

 個人的には、サビ前の「あー」というフレーズが後悔にも感傷にも聞こえるのが見事だと思う。あれは切なさの職人技だ。

Hello, my friend 
今年もたたみだしたストアー
台風がゆく頃は涼しくなる

 そんな”君”との感傷をなぞっている間に秋の訪れ。
 夏はもうすぐ終わりを迎える。
 『今年もたたみだしたストアー』『台風がゆく頃は涼しくなる』この辺りの言葉の巧みさは、短歌や俳句にも通ずるものがあると思う。
 というか、こんな端正な言葉に音を乗せるなんて贅沢な芸当、よくできるよな。凄すぎるだろ。

Yesterday 
君に恋した夏の痛みを
抱きしめるこの季節走るたび 
Ah.....

 『季節』『走る』という表現よ。
 しかも『季節』『抱きしめ』たままで。
 『恋した夏の痛み』くらいなら、探せばありそうだけど、それを抱きしめ、夏が走るという表現。これは、もう、詩。夏を彩る文学。

淋しくて 淋しくて 君のこと想うよ
離れても 胸の奥の 
友達でいさせて

 そうして巡る『淋しくて』のリフレイン。
 淋しいから『君のこと』『想う』わけだけど、もう君は目の前にいない。
 だから、願うように、祈るように、言葉が紡がれる。
 『離れても 胸の奥の』『友達でいさせて』と。
 
 胸の中で、届かないハローを伝え続ける夏。
 せめて友達でいたいと、そうやって強く願いながら。

僕が生き急ぐときには 
そっとたしなめておくれよ

 このラスサビ前の歌詞が、曲に深みを与えているよな。
 『そっとたしなめておくれよ』ってこれじゃあ、まるで、もう本当にどこにもいない相手へハローと伝え続けたみたいじゃないか、と。
 きっと、この箇所は解釈も人によって異なるだろうから、深くは考えないけれど。
 最後の盛り上がりの時にそっと刺すようなフレーズで流石としか言いようがない。 

悲しくて 悲しくて  君の名を呼んでも
めぐり来ぬ  あの夏の日 
君を失くしてから

 夏は何度もめぐる。
 生きていれば、何度も。

 けれど、”君”がいた『あの夏の日』はもう二度と『めぐり来ぬ』から。
 例え『悲しくて』『悲しくて』『君の名を呼んでも』。

 『君を失くして』しまったことには決して変わらない。

淋しくて 淋しくて  君のことを想うよ
離れても  胸の奥の 
友達でいさせて

 友達よ、夏に恋した友達よ。
 君は元気で過ごしているのだろうか。
 今も楽しくやっているのだろうか。
 時々は僕のことを、思い出しているだろうか。
 こんにちは、こんにちは、一夏の恋をした友達よ。

 みたいな。

悲しくて 悲しくて 君のこと想うよ
もう二度と会えなくても 
友達と呼ばせて

 君が、どう思ったって僕には、君が友達だから。
 きっとそれはずっと、変わることがないだろうから。
 僕は君を忘れない。
 夏が巡るたびに、この心を痛め続ける。
 悲しくて。淋しくて。
 こんにちは、こんにちは、一夏の恋をした友達よ。 

 こんにちは、こんにちは、

 こんにちは、

 みたいなね。

ずっと大好きな曲。


 皆さんも、是非聴いてみてください。 
 松任谷由実で『Hello, my friend』

 今、この季節に聴くのが本当に合っている曲です。
 是非。

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