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私(イラストレーター)はなぜ価格表を出さないのか

フリーランスのイラストレーターをしています。

主にメールでお問い合わせをいただくのですが、料金については
あらかじめご予算をお知らせいただける場合 と、
見積もりをご希望の場合 のどちらかになります。

そして後者の場合は、ほぼ確実に「ご予算はどれぐらいでお考えですか?」と聞き返す形になっています。

質問に対して質問で答える…。
できれば避けたい。でもそうせざるを得ない事情があるのです…。

価格表は作れないものなのか?

「仕事を頼みたいが、相場が全く分からない。あらかじめ価格表を出してもらえないか?」とご相談いただく事も結構あります。

やっぱり
「いくらかかるか問い合わせないと分からない。それに、予算が合わずに見送りになってしまったら…無下に断られてしまったら…」
という不安がありますよね。

お気持ち、めちゃくちゃ分かります。
私だって誰かに何かを依頼したいと考えた時、同業者であっても予算感が分からなくてすごく気を遣うからです。

なかなか見積もりが返ってこない場合は、案件もストップしちゃうからストレスになりますしね…。

出さないというより、出せない

じゃあ、やっぱりあらかじめ価格表があった方がいいじゃないか。
その必要性もわかってるんじゃないか、と思われるかもしれません。

実際、こちらとしても毎回見積もりをするより、価格を決めてしまった方が楽になる部分が多いです。

でも、出さない。
というより、出せない。

それは何故か。

条件や時間的・人的コストが毎回全く異なるからなんです。

サービスの料金というのは、ざっくり分けると

A:あらかじめ料金と内容の確定したサービスを受ける
B:受けたサービスの対価を請求されて支払う

の2パターンがありますよね。
これはそれぞれ、

A:“1時間で1000円のサービス”を受ける
B:“1時間につき1000円”のサービスを受ける

という感じです。

同じに見えて、違うんです。

Aは、すでにお客さんが支払う金額が確定しているんですね。その代わり、サービスの内容も初めから確定してます。
例えば、レストランのメニューや建売の家みたいな。

Bは、お客さんがどれだけのサービスを受けるか…つまり結果論で請求額が決まるので、内容と料金が未確定の状態からのスタートなんです。
例えば、おまかせで握ってもらう寿司とか注文住宅とか。

じゃあ、“イラストレーターに絵を描いてもらうサービス”を受けようと思ったら、どっちなんでしょうか?

・既存の絵をレンタルして使う ➡︎ A
・フルオーダーで新規に描き下ろしてもらう ➡︎ B

という事になります。
そして、私の場合はお問い合わせの多くがBのパターンです。

毎回クライアント様のご希望に合わせてフルオーダーメイドで制作するため、あらかじめ内容を予想する事ができないから、料金も出せないのです。

とりあえずの返事をして、後から全然違う金額に訂正する事もできませんしね…。

完成品を売るのではなく、売れる値段で完成させている

じゃあ、詳細を伝えれば見積もりしてくれるんじゃないの?
なんで予算を聞き返してくるの?

ごもっともです。
でも、それにも理由があります。

実は、料金を算出する手順が逆算なんです。

「これぐらいのコストがかかるから、見積もりはこの金額にしよう」
というのが普通の見積もり方法です。

でも私は、

「この金額をもらえるなら、これぐらいの絵が描ける」

というように計算し、受注できるかどうかを判断しています。
ご予算からの逆算なんです。

なんでそんな事を…素直に頼まれた絵が完成するまでにかかる時間とか労力を計算すればいいじゃないか、と思われますよね。

ところがですね、実は、イラストには「ここまでやったら完成形」って基準はないんですよ。
作者が「ここまで」と思うまで完成しないんです。

価格表-02

だから、

「絵を描いてほしいんですけど、いつまでにいくらでできますか?」
これは悩みます。
料金やスケジュールに制限がない場合、描いている本人ですらどの段階で「完成」と判断すべきか分からないんです。

「いついつまでにこういう絵が必要で、予算は○○円です」
これなら判断できます。
その制限の中で、できる最大限のパフォーマンスをすればいいからです。

そしてクライアント様が求めるクオリティが、その制限の中できちんと保てるかどうかを判断し、必要に応じて交渉したりします。

価格表-03

つまるところ、「完成品の値段」を決めて売っているわけではなく、「提示された金額内で完成させる」ように作業をしているんです。
(「これだけしかもらえないなら、ここまでしかやらない」って事ではないですよ、念の為…!)

料金とスケジュールは、私にとって目指すべきゴールであり、それがないと迷ってしまうし、「ゴールはどこに置きましょうか?」って聞かれても困ってしまうわけです。だってそれはクライアント様の事情次第だからです。

料金が変わる要素とは?

余談ですが。

ご提示いただいたご予算で、ご希望のイラストの納品が可能かどうか。
それを判断するための要素は、意外とたくさんあるんです。

・イラストのサイズ、色数、枚数
・描画する内容(人数、背景の有無、描き込みの程度)
・資料提供の有無、調査やデザイン起こしの要否
・イラストの使用用途、使用期間
・著作権の譲渡の有無
・実績公開の可否
・納品スケジュール、受注時の繁忙度
・打ち合わせの頻度、リテイクの数(見込み含む)
・継続案件かどうか、今後やこれまでの付き合いの有無

ざっとこれぐらいの要素から料金やスケジュールが妥当か判断しています。

これらをチャート式にせよ一覧表にせよまとめて定型に落とし込むのは至難の技で、これがあらかじめ価格表を作れない最大の理由なんですね…。

それでも事前に見積もりが必要な場合は

例えば、「まだ企画段階で予算がついていない」とか。
「上司や先方と相談する上で、ある程度の基準が欲しい」とか。

色々な理由で、予算を提示する事が難しいんだけど、見積もりが必要なんだ、というケースもありますよね。

そういう場合は、先にあげた項目をお尋ねして計算していきます。

ただし、条件が変更される度に再見積もりになるため、依頼内容が曖昧な段階でのお見積もりは、お互いに疲れる原因になりがちです。

過去の事例とか、または制作会社が公開している価格表とか、そういうものを参考に「これぐらいの金額だと、どこまでできますか?」って聞いてもらった方がお互いにスムーズかもしれません。

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