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右玉ラブ!

私は「右玉(みぎぎょく)」を愛している。
だって、とってもキュートで、ファビュラスだから。

右玉との出会いは、私がまだ童貞だったころ、16歳の冬だった。
たまごっちの再ブーム真っ只中だったのでプレイしてみたが、すぐに画面がうんこまみれになってやめた。
テレビでは韓流アイドルが腰をくねくねさせながら歌っていて、興味のないフリをしながら私はちゃんと発情していた。
そして、「ニコニコ動画」の全盛期だった。

ニコニコ動画には生放送システムがあり、放送主のことを「生主(なまぬし)」と呼ぶ文化があるのだが、私は当時、偶然にも素晴らしい生主を発見したのだ。
彼の名は「ミフィ」。
その名の通り、某ウサギをアイコンに設定しているのだが、実際の生主は鬱々とした口調の男。
みふぃは、4段ほどの棋力で、右玉党だった。

私は、ミフィの放送をきっかけに右玉を知り、その指し回しの妙を学んだ。
なんといっても、右玉は美しかった。

形としては、2九にある桂馬を跳ねてからその桂馬のあった位置に飛車を下げる「地下鉄飛車」である。
まさにサブウェイ、飛車が下段をするする動き回る。
さらに面白いのが、飛車と王将が接近していること。
これは「玉飛接近すべからず」という将棋のセオリーを無視した陣形なのだが、しかし、なかなかどうして、絶妙なバランスを呈しているのだ。
セオリー通りの駒組みならば、盤上左右どちらかに駒を集めて王将を堅めるのだが、右玉は左右均等に駒を配置し、さらに王将と飛車を近くに置いてしまう。
その型破りなバランス感覚は、揺るぎない美しさを醸す。
巧みに相手の攻めをいなしながら、のらりくらりと相手を追いつめていき、気付けば終局しているような将棋。
私は、右玉に熱中していた。

当今、めっきりニコニコ動画を利用しなくなった。
ネットでは将棋YouTuberのチャンネルをたまに観るくらい。
ミフィは、今も右玉を指しているのだろうか。
あれから私は、ずっと右玉を指している。

さて、右玉にまつわる小話をひとつ、これをもって筆を置くことにする。
以前、不動産会社で秘書をしている女性とセックスをした折、彼女が私の股間に下りていきフェラチオをした、そのときのことだ。
彼女は私の睾丸をコケティッシュに舐め回した。
偶然にも、右の睾丸を左のものよりも多めに愛撫していた。
期せずして私は、こう思った。
「右玉だ」と。
右の玉を入念に愛撫する光景の美しさと、盤上に陣取る右玉の美しさが、脳内で重なり、私の全身に恍惚が走った。
同時に、こうも思った。
「この綺麗な女性は不動産会社で働いているのだから、睾丸を舐められているときには、不動産を転がすイメージから発想して、玉を転がすという表現を連想するほうが筋が通っているのではないか」と。
しかし、私は右玉を連想した。
つまり、それこそが、愛なのだ。

右玉は盤上のみならず、セックスをも美しく彩る。
右玉は、人生そのもの。
感覚を研ぎ澄まし、私は今日も右玉の美しさに酩酊する。
右玉ラブ!

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