読書ノート ル・クレジオ3冊
『兎追いし日々 アンソロジー〘光る話〙の花束7』 加藤幸子 編
ル・クレジオの掌編が掲載されているとういうだけで借りた本。掲載されているのは、 ①「アザラン」(豊崎光一・佐藤領時 訳)であった。読了後も爽快、ああ、クレジオだなあ、この透明感、などと悦に入っていたのだが、なんのことはない、この話は本棚に鎮座する『海を見たことがなかった少年』に入っているではないか。もってる本を完璧に読んでいないことを思い知らされる出来事でした。
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「でもおじさんは食べもしないし飲みもしないわ!」とアリアは叫んだ。
「君に言いたかったのはそのことさ、お月ちゃん」マルタンは言った。「断食するのはね、食べ物も飲み物も欲しくないってことだ、別のものがどうしても欲しいからだし、それは食べたり飲んだりすることよりも大切なことだからなんだよ」
「じゃあ何が欲しいの、そのときは?」とアリアは訊ねた。
「神だよ」マルタンは言った。
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マルタンが、立ち退きを命じられ、行くあてのなくなった最貧困層の住民たちを引き連れ、死の行進と思われる、深い河へ黙々と入っていく場面で物語は事切れる。希望なき希望、しかしある種の救いはある。それを受け入れるかどうかは、各人が持つ神の位置にかかっているのかもしれない。
②『ラガ 見えない大陸への接近』
「本書で著者ル・クレジオが扱うのは南太平洋にひろがるメラネシア、そこに1980年に生まれた独立共和国ヴァヌアツ、その中でも特に、独自の言語と習慣が生きている島ペンテコスト島です。現地名はラガ。…メラネシア地域は概して土壌の豊かな火山島が多く、森が濃く、川の水量が多く、歴史的にいって人口もかなり多い土地柄でした。そのことを端的に証明するのが言語の多さで、それは私たちの創造の限界を、笑うようにあっさりと超えてゆきます」
「現在、私たちが『世界』と呼んでいるものが、過去数百年の『ヨーロッパ』が作り上げたものであることは間違いありません。侵略し、拡張し、市場を作り、交易をおこない、莫大な富を得るにいたった集合体の名、それがヨーロッパです。彼らはその拡大の裏面として、各地の土地の社会を破壊し、財と資源を徹底的に奪い取り、人々を殺し、奴隷化し、あらゆる面で搾取してきました。それは否定しようがない歴史であり、この血まみれの事実群の上に、私たちのグローバル化された世界は、今も続いています」
③『アルマ』
「この生命は不死の息吹へとたち返り、この肉体は灰に帰らんことを」
すべての物語には未完の部分がある。僕が再構成したかった物語も、この規則を免れない。常軌を逸した、驚異的な、無意味な名が照らし出される。
セピア
シャルミーユ
ラダマ、アリュール、サラマ フレーザー
ジュルネ
シュラ
メスキーヌ
クイック
シルヴァー・クラウド マジシアンヌ
ソコトラ
カリーセイ
ジョアス
『黄金探索者』『隔離の島』『はじまりの時』に続く、父祖の地モーリシャスを舞台とする作品の第4作目。それがこの『アルマ』である。親戚縁者が他界していき、書けないことも書けるようになったから、という理由で出来たそうな。共感する。