読書ノート 「思想 2022・11・№1183」岩波書店
メインテーマは「環境人文学」。中沢新一が参加する鼎談が掲載されているのにつられて借りたが、その中の論文、藤原辰史「『たかり』の思想」が面白い。世界を「たかり」の観点から読み直す試み。
「『たかりの思想』ー食と性の分解論ー」
私たちは環境の一種、他の分子の集合体である生物にたかられている度合いが少しだけ強い場所、「分子の淀み」に過ぎない。
たかられる者同士の交流、戦場としての棲家。
『古事記』における腐乱したイザナミの体「蛆多加礼斗呂呂岐弓」とあり、「斗呂呂岐弓」の意味は「喉がごろごろとなる」「ガラガラ声を出す」であるが、蛆が腐乱した肉体に湧いている様子をリアルに表現している。ここに「たかる」がすでに出てきている。
土佐日記「船人もみな、こたかりてののしる」船で帰って来た人々も皆、その周りに子どもたちが群がり集まって大騒ぎをする様。
醐醍寺文書「おこりたかる」=病気になる。
広辞苑 「たかる」=人を脅したり泣きついたりして金品を巻き上げ、また奢らせること。
重力と微生物の発酵作用が自然界の物質循環を促し、世界を安定させている。
資本主義とたかり。
微生物にたかられつつ食べ物にたかる、自分の微生物に食べさせながら他者の微生物を試食する、という、双方向で入れ子的な食の構造の混み入り方こそが、この地球の豊かさである。
抗生物質の功罪。抗生物質による腸内フローラの破壊。人間が微生物に「たかられている」ことを忘れてしまっている。
膨らみすぎた富への「たかり」を鎮めること。資本主義は「たかる」システム。富になるもの、それは、香辛料、茶、レアアース、ウランの鉱山、安価な労働力、現代ではスマホなどの端末を通じて日々なされる無償労働としての情報提供(膨大な価値を生み出す)。
「たかる」ことは人間の営みの本質的な部分を構成している。