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【短編小説】放課後メロウ:出会い〔前編〕

やっと補習が終わり、重くなったバッグを抱え教室から出る。
薄汚れている窓から見える景色は
夕方なのに早く夜になりたいよと言っているようだった。

つき当たり、階段を下ろうとした時
右側にあったドア(『第一音楽室』と書かれている)の奥から
ピアノの軽快な音とそれに連ねて
女の子の独特なかすれたか細い綺麗な歌声が聴こえてきた。

知らない歌だ。
そのまま家に帰ってもつまらないので、
少し覗いてみることにした。

ピアノが弾ける女子とかクラスにいたっけ。
そもそも同級生じゃないのかな。


「ガラッ」
あまりメロディーの邪魔にならないようにゆっくりと戸をずらす。
少し鍵盤を押すテンポがずれた。
怪しまれたかな。


ついにピアノの音が途切れたため
早々に顔を出し、しっかり生徒ですよと会釈程度の無言の挨拶をした。

見知らぬ女の子はそっと前に向き直し、
僕のこと見てないですよと言いたげに
今まで通り弾き語りを始めた。

僕は黒板の前に置かれてあった
錆びたパイプ椅子に腰を下ろす。
チャイムが聞こえるまでここでゆっくりしていこう。

一曲、二曲、三曲…。
そっと聴いていたはずのピアノの音がいつの間にか無くなっていた。
寝ていたんだ。
真っ暗闇の視界を頑張って破る。
外はもう真っ暗。肌寒くもあり、女の子は大丈夫かとチラッとみる。

ちょうど自分のバッグに楽譜を入れている途中だった。

「良い演奏だった。よかったら明日も来ていい?」
寝起きの第一声だったため声がカスカスだ。


「いいよ」
2ミリほど口角を上げ微笑んでくれたその女の子は、
それだけ言ってスタスタと音楽室を出て行った。


やった。明日も聴ける。
つまらない毎日に終止符が打たれた気持ちで僕は帰宅した。


後輩なのか。同級生か。
そんなに全校生徒は多くないから
一回聞けば顔も名前も覚えられそう。
次回、ピアノを聴きに行った時に

いろいろ質問してみようと決心した夜だった。

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上達衣織|Kandachi Iori|小説家志望
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