潰す

恥ずかしいけど見られたい、中高生のときかいた小説のプロットです

 母の中に子供ができた。私は正真正銘、父と母が二十の時に、その間に生まれた子供だが、それは誰の子なのかは知らない。父はもう、だいぶ前に居なくなったし、今年で三十六になる、もう若くはない母に恋人の影はない。
 控えめに、でもはっきりと「その子のおとうさんは、誰なの?」と聞いた。でも母はたただ、ふふっと笑って私に言い聞かせた。「ねえ、この子のおとうさんは、この子のおとうさんでしかないの。」昔から母はこういうよく分からないことを言う、人だった。
 暫く経って、母の身体の変化は目に見えるものになってきた。まず、悪阻。ものを食べずに、のらりくらりと過ごす母は、美しかった。肉の削げた頬や、青白くなった肌の色は彼女の薄幸な美しさをよりひきたてた気がする。でも、すぐ悪阻も治まってしまった。つまらない。
 またまた暫く経って、私が某呆然と過ごしている間に、母はどんどん妊婦らしい生活を送るようになった。緩んだ洋服を着たり、胎教に良いと言われている音楽を聴いたり、或いは安産の体操をしたりと。二番目の子供なので、初産(つまり私のことだ)よりは産むのは楽になる、というが、そう言ったって女にとって出産が大変な仕事であることには違いない。横向きに寝て足を動かしたり、身を捩ったりとしている姿は、母が子供のようだ。いや、もう子供に近付いているのだろう、妊娠とはそういうものだと、今までの母を見てきて思った。
 母の腹は、信じられないほど、大きくなっている。私は気味が悪くて、ある日母の寝しなに寝間着の裾をめくった。ぽんぽんとお月さんのように丸い腹。あまりに気味が悪いもので、触ろうかと思った気持ちも萎えてしまったが、もうすぐこれは出てきてしまう。ゆっくりと触った腹は生暖かく、すべすべしていた。だから、腹の上に乗っかり潰した。ぐしゃ、ぐしゃ。母の悲鳴はきこえなかった・

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