支援団体が当事者の若者を雇用すること
若者支援団体が当事者の若者を雇用することが増えている。ただし、その在り方は正しいのだろうかということを自省をこめて寄稿する。
支援団体が支援対象者を雇用するということ
若者支援団体が、社会復帰のために支援対象者を自団体で雇用したり、有償ボランティアとして活動してもらうという手法は、生活安定のため、また社会生活への復帰という面で一定の効果を生むものである。このアプローチにより、支援対象者が実務経験を積み、自尊心を回復し、社会的なつながりを再構築する機会が提供される。しかし、この手法にはいくつかの重要な課題が存在する。その中でも特に大きな課題は、支援団体の財政基盤の脆弱性に起因するものである。
①補助金頼みの財政構造とその影響
多くの若者支援団体は、補助金や寄付金に依存して運営されている。このような財政構造は短期的には支援活動を支えるが、長期的には持続可能性の問題を引き起こす。補助金は一定期間しか支給されず、寄付金の流入も不安定であるため、団体が支援対象者を長期間にわたって雇用し続けることは難しい。また、団体自身の職員や役職者の雇用も不安定になるため、支援活動そのものが揺らぐリスクがある。
このような不安定な財政基盤は、支援対象者に対しても悪影響を及ぼす。支援団体が提供する雇用が一時的なものである場合、支援対象者は再び不安定な生活に戻る可能性が高まる。これにより、支援の効果が限定的なものとなり、持続可能な社会復帰の道筋が見えにくくなる。
②「出口戦略」の必要性
支援団体が支援活動を展開する上で重要なのは、「出口戦略」をしっかりと考えることである。支援対象者が自団体での雇用期間を終えた後に、一般の労働市場で継続的に働けるような仕組みを構築する必要がある。
例えば支援対象者に対して、一般の労働市場で通用する実務スキルを習得する機会を提供する。これには、ITスキル、接客スキル、ビジネスマナーの研修などが含まれるが、支援団体が雇用している者に対して、同時並行して行える体力があるかも課題だと思われる。
それを超えるには、支援団体が地域の企業と連携し、支援対象者を積極的に雇用する枠組みを構築するだろう。企業側にとっても、社会的責任(CSR)の一環として受け入れるメリットがあるが、ネゴシエーションするだけのスキルがある団体だけではないことは、自明である。
③年齢に応じた支援対象者と支援の変化
支援対象者が20代前半の段階では、まだ社会復帰のハードルは低いかもしれない。しかし、20代後半にもなり、30代に近づくと、労働市場との乖離が進む可能性が高まる。30代に差し掛かった支援対象者は、次のような課題に直面する。
・就職先の選択肢が減少する
・周囲からの社会的なプレッシャーが強まる
・自身の将来設計が曖昧になる
・一般企業より軽易な仕事で得られる金銭が多く、労働市場との認識の乖離が発生する
④就労とメンタルヘルスのケアを同時並行で進める困難さ
支援対象者が社会復帰を果たすためには、就労支援とメンタルヘルスのケアを同時並行で進める必要がある。しかし、これを同時に実現するのは非常に困難である。就労支援に注力するあまり、精神的なサポートが疎かになると、支援対象者は職場環境でのストレスに耐えられなくなる可能性がある。
一方で、メンタルヘルスのケアに重点を置きすぎると、実際の就労経験が不足し、労働市場での競争力を失うリスクが高まる。このバランスを取るためには、専門的なスタッフの配置や個別支援計画の策定が重要となる。この設計を「支援を受けていない」「自分で立脚していた」と支援対象者の若者に思ってもらうだけのスキルあるワーカーがどれほどいるのかも、課題となる。
現実問題として障害者就労が可能であるならば、そちらに誘導していくことも必要なのではないかと思うが、ここでは支援対象者本人の納得が必要であり、自己決定の原則から見ると、無理に誘導することもできず、ここでも支援者側としてのジレンマが発生するのは言うまでもない。
また、近年のSNSの発達により企業へ就労することではなく、自ら創業しインスタグラマーとなって生活をしていくと言うスタイルも生まれつつあるが、そこに対するリスクを説明しきることができる若者支援団体も同時に少ない。ややもすれば漂流する若者から中高年の発生となり得る、この点に関しても難しいところである。
⑤支援団体の財政基盤強化の必要性と課題
支援活動の持続可能性を高めるためには、支援団体自身が自主財源を確保する努力が不可欠である。しかし、多くの団体が外部からの資金提供に頼っており、内製化された収益構造を持つケースは少ない。この点も大きな課題である。外需に依存する形では、外部環境の変化に左右されやすく、長期的な安定が見込めない。
支援団体が社会的企業として事業を展開し、利益を得ることで財政基盤を強化する。これにより、補助金や寄付金に依存しない運営が可能になる。ただし、これを実現するには、収益性の高いビジネスモデルの構築が不可欠である。
特定のプロジェクトに対してクラウドファンディングを活用し、広く一般から資金を募る。ただし、これも一時的な資金調達に過ぎず、継続的な収益源としては限界がある。
支援団体が独自の収益事業を展開し、外部の資金に依存しない運営を目指す。例えば、地域のニーズに合ったサービス提供や、支援対象者が直接関与する生産活動を行うことが考えられる。このような事業の内製化により、財政基盤の安定化を図ることができる。
⑥どうしたらよいだろうか
若者支援団体は、社会復帰の第一歩として自団体での雇用や有償ボランティアを提供することに意義がある。しかし、支援対象者の長期的な自立を実現するためには、「出口戦略」を明確にし、労働市場との橋渡しを行う必要がある。また、支援団体自身の財政基盤を強化し、外部資金に頼らない内製化された収益構造を構築することが重要である。
さらに、就労支援とメンタルヘルスのケアを同時並行で進める難しさを認識し、個別支援の充実を図ることで、より効果的な若者支援が可能となる。若者支援は単なる一時的な救済ではなく、長期的な視点での社会的包摂を目指すべきである。
追記
本稿では団体側としての問題意識に比重を置き、あまり触れなかったが、若者たちにとっても重大な問題がある。それは雇用形態によっては福祉サービスを受けられない可能性があるということだ。
よくある支援の方法ではあるのだが、複数団体で短時間ずつ働いてもらい、それで若者1人の収入を賄うというもの。
ただし、それは雇用保険未加入=失業手当がない、社会保険未加入=国民健康保険のため傷病手当や育休手当がない、厚生年金未加入=障害基礎年金のみで、障害厚生年金の受給ができない(かなり金額が違う)し、将来受給できるはずの老齢年金額が減るなど、本来、ひとつの団体で正規雇用されていれば受けられている社会保障の欠如が出てくる。これでは離職したら生活保護にすぐ戻ってしまうことになる。この点をどうするかは、大きな課題だ。