
相談援助の専門職がコーチングを受けて感じたこと
先日、3人の社会福祉士と2人の大学教員で、あるコーチングセミナーに参加してきました。このセミナーは「効果的な人材育成」や「チームビルディングのための手法」を学べるといった触れ込みで、多くの業界関係者が興味を持ちそうな内容でした。しかし、実際に参加してみた感想を率直に述べると、これは社会福祉士を目指している人や資格を持っている人たちにとって、特段目新しい内容ではありませんでした。
養成課程で学んだ内容と大差ない内容
セミナーの中で紹介されていた「コーチング理論」や「実践的手法」とされるものは、社会福祉士の養成課程や現場実務で学ぶ内容とほとんど重なるものでした。たとえば、セミナー講師が「◯◯理論」と名付けて解説していたものの中身を見てみると、基本的にはミラーリングやリフレーミングの技術が中心でした。これらは、相談援助実践で重要とされる技術の一部であり、学生時代から何度も触れてきたものでした。
また、「傾聴」という項目では、「受容的態度」を取ることの大切さが強調されていました。しかし、これも社会福祉士の養成課程で必ず学ぶ基礎中の基礎です。そして、バイステックの他の部分は出てこずに、メラビアンの法則をだすなど、少しチグハグな内容でした。
養成課程で学ぶ内容をしっかり身につけていれば、特別な新しい知識や技術が得られるわけではない、と感じざるを得ませんでした。
なぜこのようなセミナーに参加するのか
このセミナーは私たちを除くと主催者半分、リピーター1人、数人の新規の人が参加していました。こうしたものに参加したがる理由を考えると、おそらく「スキルをさらに高めたい」「新しい視点を得たい」という思いが背景にあるのでしょう。コーチングという言葉自体が近年注目されていることもあり、それを学ぶことで新たな付加価値を得られるのではないかと期待しているのかもしれません。
しかし、内容が養成課程で学ぶものと大差ないのであれば、その期待は裏切られる可能性があります。むしろ、こういったセミナーに高額なお金を払うことで、「自分の実力不足を補う投資」と錯覚してしまうことに注意が必要です。
まぁこの参加人数だとぶっちゃけ儲かってはいないよねと思うけれど、こうした無料セミナーも実績としてカウントされていくとしたら、もはや魑魅魍魎の世界だなと思います。
社会福祉士や学生に伝えたいこと
このセミナーを通じて改めて感じたのは、社会福祉士の養成課程で学ぶ理論やアプローチ法がいかに実践的で普遍的なものであるか、ということです。現場での経験を積む中で、これらの基礎がいかに大切かを痛感する場面が多々あります。その一方で、「新しい」や「画期的」という言葉に惹かれて、すでに知っている内容をわざわざお金を払って学び直そうとする風潮があることも事実です。
社会福祉士を目指す学生や、すでに資格を持っている方には、ぜひ安心していただきたいと思います。養成課程で学ぶ理論や技術は、十分に実践で通用するものであり、必要以上に「新しいもの」を追い求める必要はありません。もちろん、現場経験を通じて学びを深めることは大切ですが、それは高額なセミナーで得るものではなく、自分自身の経験や日々の実践の中で培われるものです。もしくは、職能団体に所属したほうがよほど有効でしょう。
これからの学び方
今回のセミナーで学んだ内容が全く無駄だったとは思いません。ただし、「知識」としては既知のものばかりだったので、むしろ自分たちがすでに学んだことの価値を再確認する機会になりました。こうした場を通じて自信を持ち、「基本をいかに現場で活用するか」を考え続けることが、私たち社会福祉士に求められるのだと思います。
結論として、資格取得を目指して学んでいる学生や、既に現場で活躍している有資格者の皆さんは、焦らず着実に基礎を学び、実践を重ねていくことが一番の成長につながるのではないでしょうか。「新しい」という言葉に踊らされず、自分の学びと実践を信じて進んでいきましょう。
いいなと思ったら応援しよう!
