サドル狂騒曲85 美しい瞳
「 無礼者。入ってよいとは言っていないぞ 」
グラスのお酒を軽く含んで幣原様は恭平さんを睨んだ。
「 申し訳ありません。非礼は承知しております。ですが北岡がこちらに伺ったと進藤から聞きましたので早く止めにいく必要があると判断いたしました 」
「 あの小僧が?知っているのか。では話は早い。私がこの娘の処女を貰い受けても何の異存もないという事だな 」
「 それは違います。あの約束はまだ有効です。彼女が20歳になるまでどうか待っていただきたい。そうでなければ、私たちが投資した500万が無効になってしまう 」
「 この娘は、あの金をお前たちに返してやれと言っておる。私は金など正直どうでもいいが、自分の都合で話を曲げられるのは不愉快だ。とっとと娘の処女を償却してお前達と縁を切った方が面倒がなくてよろしい 」
「 幣原様の言う通りです、私は北海道へ戻りますから、恭平さんは雄太さんと仲直りして下さい 」
「 青葉、こっちへ来るんだ 」
やっと私は恭平さんの方を見た。こんな恥ずかしい姿を見られたくなかったけど、最後に会えたと思えば嬉しい。私は片手で涙を拭いた。
「 私はもう最初からいなかったと思って下さい。早く雄太さんのところに行って!そうしないとあの姫が…… きゃあ! 」
幣原様は私の足を引っ張った。ベッドに倒れた私のパンティを引き下ろすと床に放り捨てる。とうとう裸にされて私は泣きながらうずくまった。
「 こっちを向いて、足を開け 」
「 やめて… これ以上苦しめないで早く終わらせて下さい… 」
「 お前の足の間にあるものは私に所有権がある。自分の持ち物を見て何が悪い?足を開いて言ってみろ。『ご主人様、私を抱いてください』とな 」
変態侯爵は面白そうに私を見下ろした。恭平さんが見ている前でそんな事をしたら、恭平さんはきっとこの人に飛びかかる。
卿を殺して。俺も死ぬ
あの言葉は嘘ではない。私のために彼を殺人者には出来ない。
「 幣原様、お言いつけに従いますから、如月チーフは外して下さい。どうかお願いします 」
「 お前… 私に指図する気か?これはお遊びの前にこらしめてやらんといけないなあ 」
からかうみたいにつぶやいた後、その顔は鬼の形相に変わった。
「 逆さに吊られて鞭で打たれたいか!馬より価値のない猿娘が!」
死のう。この男に奪われたら、この部屋の窓から飛び降りて死のう。
私の中で何かがスッと降りて全ての怒りと悲しみが消えた。どんなに堕ちても心は気高くそして愛してくれた人へ感謝して死んでいきたい。私はピタリとつけた両脚を揃えて前を向いた。つま先に力を入れて膝を開く準備をする、
「ご主人様… 」
震える声で絞り出した言葉の先は、矢のように飛んできた恭平さんの声に切り落とされた。
「 お待ちください、卿。すべては先に私を抱いてからにしていただきたい 」
私と侯爵は恭平さんを見て唖然とした。
上半身裸になった恭平さんは、手に持っていた服を床に投げ落とし髪をほどいた。不思議な色をした瞳の奥に、表現できない何かが灯っている。
私は、描いてはいけないものを作ってしまった。
片桐卿の残した言葉が、あの絵と一緒に私の目の前を通り過ぎていく。
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