サドル狂騒曲87 土壇場の優美
手応えはあった。シャツの割ける音に続いて短い呻き声が聞こえ、反動で私はベッドの足元に倒れこんだ。ナイフの刃先にうっすらついた血の染みを見て振り返ると, サイドテーブルにもたれて脇腹を押さえる幣原様の背が見えた。二つに割けたシャツに赤黒い染みが3つ。血だ。
「 う… 」
恭平さんの弱い声がした。ベッドの上で縛られたまま仰向けでぐったりしてる。首に赤黒い手の跡が生々しい。
「 恭平さん!死なないで!」
ベッドに上がると私は剥き出しの下半身を元に戻して、縛られた手をほどこうと恭