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検品部屋

爆音のクラブミュージックが流れ続ける部屋の中で発色の鈍いゴムボールだけを側面がザラザラの箱に拾い集め、いっぱいまで溜まったら蓋をして部屋の外で待つ軍服の男に受け渡すバイトをしている。部屋は基本的に照明が落とされ暗く、夜光塗料によるコーティングがちゃんとしているゴムボールだけがその存在を主張しており、当の発色の鈍いゴムボールは目を凝らさないと見つけることが出来ない。ゴムボールは部屋の床一面に乱雑に散らばっていて、ちょっと歩くとすぐに踏んずけてそれなりに痛いし、たまにベキっと音を立てて割れるやつがあったりする。恐らく何かしら商品として取り扱われているものだろうと思われるので、それらを踏み抜いて破壊している現状が外の軍服にとって思わしくないことは想像に難くないのだが、とりあえず今の所はそういうことは考えないようにしている。あまりにも真っ暗なので定期的にザラザラの箱を見失う。しかも部屋には発色の鈍いゴムボールを集める用のザラザラの箱以外の箱が無意味に配置されているので、手を伸ばし広げて感触だけで箱の所在を探り当てても壁面がツルツルしていてちょっとイラっとするというようなことが頻発する。夜光塗料の確認のために部屋を暗くし、部屋が暗いので手触りで判別出来るようにザラザラした箱を用意するという安直なロジックによってこのストレスフルな労働環境が生み出されたことに延々と腹が立つ。とりわけザラザラの手触りというユニバーサルデザイン気取りのアイディアの安っぽさと、それを提案したやつのしたれり顔を想像すると一挙に激情が湧き上がってくるのである。足元のゴムボールを適当に掴んで壁に向かって投げつけた。ゴインゴインと部屋中を反射し飛び跳ねたゴムボールが最終的に真上から脳天に直撃し、薄ら掠れた視界をさらにボヤけさせた。頭皮のいい所に当たってびっくりするほど痛かったので泣きそうになってしまった。それまで視界の悪さ故に逆にハッキリとしていた意識や思考が瞬間的にジワジワと滲んで、何をする気も起きなくなってしまった。こうなるとあとはひたすら脳内をクラブミュージックが満たし、もはやそこに個人という概念は存在せず、ただ血液の循環や筋肉の収縮、骨格の可動を我ともなく繰り返す従順な兵隊がいるだけとなるのである。目に映るのは軍服のニヤニヤとした薄ら笑いだけである。

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