軒下で読書
「これからは、時間と労力をかけて『後ろに進む』ことをまずやらなければならないと思います。これまで見過ごしてきたものを取り戻しにいく前向きな旅は、後ろに進むのです」(『弱さのちから』若松英輔著)
弟の亡くなる少し前に友人から借りていたこの本をそろそろ返さなければ、と読みかけの続きから読み始めました。その中で心に留まったのが、引用した言葉。
大切な家族を失ったのですが、生きている間は仕事や育児の忙しさを言い訳に離れて暮らす家族のことを一度も考えないような日々も多くありました。
取り返しのつかない状況になって初めて本当は直視すべきだったことがたくさんあったことに気付かされたのです。
同様に今を生きるこの世界にとって、直視すべきなのに見過ごして、いや逃げていることのなんと多いことか、と焦りさえ覚えてしまいます。
けれども弱さや欠け目の多い私が、世界の問題に取り組み、変化させる力などあるでしょうか?
問題の大きさに圧倒されるとき、そういう時こそ、目の前のことに誠実であることに立ち返ります。目の前のものを人を大切にすることにもがく中で、その葛藤が、世界の苦しみを少しでも和らげることにつながるように、と。
ゴミ一つ捨てるときにも流されず、誠実でありたい、とそこに帰ってくるのです。
ここに記す心の軌跡も後ろに進む前向きな旅の記録のように感じています。もう一度見過ごしてきたものを辿るように。