目が明く藍色という一つの答え
サカナクションは札幌から東京へ活動拠点を移し、2010年1月セントレイに続き約一年ぶりの2枚目シングルとしてアルクアラウンドをリリース。斬新な音楽性と評価されチャートの上位にランクインするなどしてヒットするが、山口一郎自身はアルクアラウンドのような前向きで分かりやすい表面的な曲調の曲に「自分らしさ」をあまり見出せなかったという。
そんなジレンマと闘いながら、これからどういう曲をやっていきたいのかを考えてリリースしたのがkikUUikiというアルバムだ。後にラジオで山口はアルバムsakanactionで収録された楽曲には、表と裏があると解説していたが、まさにkikUUikiでもその理念を垣間見ることができる。
kikUUikiのアルバムのなかで鍵となる楽曲はもちろん、目が明く藍色だ。シングル化されてはいないが、7分近くに及ぶ超大作でアルクアラウンドが表のリードナンバーなら、この曲はいわば裏のリードナンバーと言えるだろう。山口はこの曲を9年掛けて制作した。彼自身の一つの答えと完成形と言っても過言ではない。
目が明く藍色という言葉は山口が10代の時に夢に出てきた女性が彼自身に言っていたもので、札幌時代にすでに目が明く藍色の原形は作られていたが、それは未完成のまま忘れてしまったらしい。
また目が明く藍色は当初どうやらMEGAAK(U)AIIROというタイトルだったとか。着目すべき点はkikUUikiというアルバムのタイトルにもあるUという文字だが、これはアルファベットUではなく和集合∪積集合∩を意味する。詳しくは言及されていないが、和集合から積集合へと無駄な要素を淘汰していくという意味に連想される。
この楽曲はサカナクションというバンドを象徴する、異様な世界観が特徴だ。特に途中でオペラのような合唱パートとエレクトロやダンスミュージックが掛け合わされたかのような構成に突然変わる箇所が印象的だ。これがサカナクションというバンドが到達した『良い違和感』だ。
歌詞についても、かなり深い。
実はこの曲の歌詞の一部を縦読みすると、山口一郎自身の遺書になっていると本人がラジオで打ち明けている。
本曲のタイトルにもある藍色は、この曲のキーワードの一つだ。藍色という色に対比させて青色という言葉が出てくる。青色とは若さや新しさ自分らしさを象徴する色であるのに対し、藍色とは青がくすんで黒みがかった色で、若さや新しさ自分らしさに暗い要素が加えられているというように解釈できる。
曲の序盤では、
「藍色になりかけた空で確かに君を感じて」
青色から藍色に変化する様子が表されている。
次に出てくるのが、
「藍色いや青い色した ずれて重なる光 探して 探して」
自分の色が青色から藍色に変化するなかで光、所謂自分らしさやアイデンティティを探している様子がわかる。これは先に前述した積集合(A=青色 B=藍色 A∩B=光)であり、アルクアラウンド(求められた音楽)と目が明く藍色(自分逹が目指す音楽)の葛藤とも解釈できる。また、その光はライターの光のように単純だが、揺れていてすぐにでも消えてしまいそうな不安定なものでもある。
「立ち止まってるだけの僕らしさなんて すれ違っていく人は気づくはずないんだ」
「この藍色の空 目に焼き付けて 次 目を開いたら目が藍色に」
自分らしさがくすんだ藍色の空に染まっていきそうな自分を揶揄し、メガアクアイイロという言葉をクレシェンドでオペラのように展開的に繰り返すことによって、それが迫ってきているようにも感じられる。
「藍色の空が青になる その時が来たらいつか いつか」
「君の声を聞かせてよ ずっと ずっと」
この楽曲の一つ答えのように聞こえる、
「悲しみの終着点は 歓びへの執着さ」という表現は、自分らしさを探し続けることで、悲しみから解放されると結論づけたのではないだろうか。
ちなみに最後のアウトロ、メンバー全員の合唱フレーズではドラム江島の「ここっ!」と言う声が聞こえる。最初は声という認識がつかずバイノーラルで採ったファスナーを閉める音だと思い込んでいて、サカナクションがこれからの活動への再出発の決心を暗示するもののように思えた。しかし、実はは江島の指示がレコーディングに入ってしまったものらしい。
そんな山口率いるサカナクション渾身の一撃である目が明く藍色という曲に、リスナーも刺激を受けたはずだ。ファン投票1位の楽曲に選ばれたことが何よりの証拠だ。
https://youtu.be/xOqvFHwh3rk