涸沢の睡魔
歩きながら意識が飛んでいく感覚を経験したことがあるだろうか。
いまから6年くらい前になると思う。
高校2年の夏に穂高連峰縦走をした。
上高地から入って北穂、涸沢、奥穂、前穂をぐるっと一泊二日かけて歩くルートだ。
前日は夜遅くまでアルバイトをしていたが、その足で松本へ向かった。翌早朝5時にはもう歩き始めていた。
そのせいもあってか、快調に進んでいた僕の足は涸沢小屋で一服をしてからだいぶ重くなってきた。激しい睡魔に襲われたんだ
何度も膝を斜面にぶつけ、両手を地面についた。
傾斜があったから二足歩行をやめ、手足を使って進んだ。それでもまだ、眠かった。
水を飲み、呼吸の仕方を変え、ゴーグルを外し高い標高の真っ直ぐな日差しを浴びたが、眠くてしようがなかった。
夏山であったから直ぐに死に至ることはないが、気温は10度を下回る。このまま風の強い稜線で寝てしまえば低体温症に陥る可能性もゼロではないし、一番に滑落の危険もある。
山を歩いていて初めて、眠気で死を垣間見た。
「眠り」は「死」の従兄弟である。