見出し画像

入院日記④

月曜日の血液検査で問題がなければ来週中に退院になります。

金曜日、主治医が巡回のときにそう告げた。
早々に退院が決まってしまった。
私には何もまだ覚悟ができていないのに。
持病のこと。会社のこと。
会社での人間関係のこと。
持病を理解してもらうためにしなければいけないこと。

入院が始まってすぐは急なお休みが嬉しかった。
のんびり読書する時間をまとまって取れることが嬉しかった。
でも脳みそは思考停止したように現実から目を背けている。

とりあえず読書を続ける。
まもなく9冊目を読み終える。
曜日感覚はすっかり失われたけれど、この日曜日の間に日常に戻る心の準備を少し進めなければいけない。

なんて思っていたらあっという間に月曜日が来てしまった。
退院は決まったし、すっかり良くなったので血液検査も行われなかった。

なんと不思議と心持ちも変わった。
たぶんここ数日に読んだ読書の影響だろう。
たくさん本を読んでたくさん養分を吸収した。
たくさんといっても7日で10冊ほどだ。

今は退院したあとのことを考える。
家でどんなことをしようか。
まずは切り花を買って部屋に飾ろう。
新しい鉢植えを買おう。
そんなことを考えてワクワクする。

通話でたくさん笑わせてくれたシロクマのことも考える。
Wi-Fiがなかったため入院してすぐに通信規制にかかってしまった。
早く退院して家のWi-Fiでビデオ通話をしたい。
顔を見たい。
退院に前向きになるなんて思ってもみなかった。

金曜日の段階での師長さんとの会話を思い出す。
退院したくないです…会社にも行きたくない…
投薬の必要性ややり方、やらなきゃだめだってことわかるんです…
でもしたくないし、しなきゃいけない意味はわかんないです
生きるために努力しなきゃいけないのわかんないです
でもねえあんた、働かないわけに行かないんだから
どこにだってやな人はいるよ
病気は変えられないんだからまわりに病気をわかってもらう努力はしないと
そりゃあみんながみんなわかってくれるわけじゃないかもしれないけどさ

なんだか師長にまで成り上がった人と会話すると
自分がわがままを言っている3歳児のような気がしてくる。
何を言ったって歯が立たない。でも思いやりを感じる。
その人は4人部屋に一人ぼっちの私を見て、足繁く病室に通ってくれた。
あら、小川糸、いいわよね私も読むよ
自分でご飯作るの?切り干し大根を大根の皮から?面白いね、きんぴらにしても美味しいよ
また月曜来るからね!話に!
なんだかとっても励まされていたようだ。

体が休まってすっかり心も元気を取り戻した。
心が疲れて弱っていただけだったんだろうか。
また会社に行ったらやっぱりだめかもしれない。
けれど今は一旦平気になったかもしれない。
今焦って考えて全部決めなきゃいけないわけじゃない。
すぐどうこうしなきゃいけないわけじゃない。
どうやって生きようって絶望したり生きる方法を考えなくたって自然と生きてたりする。
私が私のままでいるだけですくなくとも立派で。そこからさらに次、その先を考えていけばいい。
会社をやめたいと思ったりした。有給を考えるといつ最終出社でなんて逆算したりした。
休職したいとも思ったりした。今すぐ会社に行くのをやめないと死んでしまうと思った。
引っ越す先の土地を探した。賃貸を探した。引っ越す方法を考えた。
貯金を考えて何ヶ月なら生き延びられるかなと計算したりした。
慌てる必要はない。焦らずともよい。
少し元気になった今なら毎朝起きて出社もできる気がする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?