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200529 コロナ×自然災害 インド東部・バングラディッシュを直撃した大型ハリケーンへの早期対応から学ぶ

 5月20日夜から翌21日にかけて、インド東部・バングラディッシュに30年に1度の規模とされる大型ハリケーンが上陸した。COVID-19の感染拡大を抑えながら住民を安全な場所へ避難させるため、政府・国際機関を中心に上陸前から物資の手配や避難所の設立が進められた。現地で活動するUNHCRフィールドオフィサーの一人は、「パンデミック下の災害対策について考えるにあたって、今回の対応は他国が参考にすべき点がたくさんある」と語った。

「対象地域はこれまでになく脆弱な状況下にある」

 大型ハリケーン襲来の予報が発表された上陸5日前の地点において、コロナ対策と自然災害対策の両立は非常に困難なものになると予想された。規模は30年に1度といわれており、ガンジス川河口の標高の低いデルタ地帯に住む住民たちは、暴風雨と高波から逃れるため安全な場所へ避難する必要があった。

 しかし、予想地域のすべてがCOVID-19の影響による外出制限の対象地域であった。長いロックダウンで住民同士の連携や正確な情報伝達が行われるかも懸念された。そのため人々は、災害のリスクをとるか感染症のリスクをとるか、難しい判断を各自が迫られた。

 避難所を準備する行政側も、様々な問題に直面した。元々インドやバングラディッシュは人口・人口密度が世界的に見て非常に高い地域だ。そのため避難所でソーシャルディスタンスを確保するのは大変難しいとされた。

 また長期化する感染症対策によって、緊急医療にかかわる医師の数やマスク等の物資も余裕がある状態ではない。被害予想地域の中には85万人のロヒンギャ難民が暮らす難民キャンプも含まれており、彼らの住処は大型サイクロンに耐えれるような頑丈なものではない。以上のような状態から、国連各機関は「対象地域はこれまでになく脆弱な状態下にある」と発表。政府・現地パートナーと共同で避難準備が進められた。

災害管理委員会による最大限の準備

 インド・コルカタでは、サイクロンが上陸する数日前に災害管理委員会が設置された。緊急会合では、早期避難情報の発信やサイクロンシェルターの開設、避難食の確保などの準備が議論された。

 また、コロナ感染防止対策についても十分な検討がなされた。現在インドではアジア最大の11万人以上の感染者が発生している。行政はソーシャルディスタンスを確保するために、学校等を利用して通常より多くの避難所を開設した。また消毒液や石鹸の設置、ボランティアへのマスクの配布など可能な限りの対応を行った。

 早めの避難準備を行ったため、結果として当該地域では300万人がサイクロンシェルターに避難することができた。避難中はサイクロンシェルターの状況確認や食糧配布が計画通り行われ、懸念された逃げ遅れやCOVID-19の感染クラスターは起きなかった。

 臨時の対応も適切だったが、通常時からの防災計画もこの対応を後押しした。もともと当該地域ではJICAや国連機関の支援によって多くのサイクロンシェルターが地区ごとに建設されている。またロヒンギャ難民居住区でも、NGO団体が中心となって事前に数百のシェルターが用意されていた。

 天災は場所や状況に関わらず突然われわれ人間を襲う。自然災害は数日前に予測することができるが、地震や津波は特に人々にとって時間の余裕はない。頻発地域では普段から防災対策や避難訓練が行われているが、現在のようなパンデミックの状態でどのように対応すべきか、改めて準備する必要がある。冒頭のUNHCRの職員の言葉にもある通り、この対応から他の地域・国が学び、行動に移すことが必要だ。

災害は過ぎ去れば終わりではない

 しかし、インドでは今回の災害で80名以上が死亡し、5000万人以上の住民が浸水などの影響で家屋が被害を受けた。AFPBBや時事通信の記事によると、国際機関から食料・衛生キッド・家屋修理用品などの支援物資が避難所に届けられたという。また浸水による農作物への被害や、感染症リスクの温床となる生活用水の汚染も発生するなど、二次的な損害も大きくなっている。これらもまたCOVID-19による被害とのダブルパンチで、住民の負担もより一層大きくなっているのが現状だ。

 World Visionのトーマス地域担当責任者は、「住民たちの行動や連帯感は目を見張るものがあったが、気候変動問題や貧困問題などの根本を解決しなければ同じようなリスクは再び起こる」と語った。国際社会はより協力して、リスクに対して強靭なコミュニティーの構築を継続して支援していく必要がある。

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