那須川天心vs裕樹 試合レビュー
2020年11月1日大阪にて行われた「Cygames presents RISE DEAD OR ALIVE 2020 Osaka」のメインイベントにおいて
プロキックボクシング において41戦41勝(31KO)という怪物じみたレコードを出し続ける「神童」こと那須川天心選手とRISE史上初の3階級制覇を成し遂げたローキックの鬼、裕樹選手が激突した。
今試合は裕樹選手の引退試合を兼ねており、裕樹選手たっての希望から現在同階級において世界最強のキックボクサー那須川天心選手との対決が実現した。
個人的な感想になってしまうが私が初めて裕樹選手の試合を見たのは、まだ私が高校生だった頃テレビで見たK-1のリングでの試合だった。(今から7〜8年程前)
その試合は確かK-1において新設された-63kgの日本代表決定トーナメントでこのトーナメントで優勝した選手がK-1の世界トーナメントに進出できるというものだったと思う。
結果的には愛知県名古屋市の大和ジムに所属する後にWBCムエタイライト級世界チャンピオンに輝く大和哲也選手が後にK-1の世界チャンピオンに輝く久保優太選手に対してダブルノックアウト勝ちをして優勝する劇的な幕引きとなったのだった。そしてこの試合こそが私が格闘技にどっぷり浸かることになったきっかけの試合でもある。
(↑ダブルノックアウトのシーン。この後二人とも倒れて久保優太選手は立ち上がれず大和哲也選手は立ち上がったため大和哲也選手のKO勝ちとなった。)
話は少し脱線してしまったがこのK-1-63kg日本代表決定トーナメントの1回戦において大和哲也選手と対戦したのが裕樹選手だった。そしてこの試合こそが私が初めて見た裕樹選手の試合だった。
結果的には裕樹選手は大和選手の左フックでKO負けしてまうのだが裕樹選手の執拗なローキックは強く印象に残り忘れることはなかった。
そんな7〜8年前にテレビの中で現役で戦っていた裕樹選手が今も現役の選手として活躍しているのはとてつもなく驚異的である。
そしてその裕樹選手に印籠を渡す役目を担ったのが現在世界最強のキックボクサー那須川天心選手という巡り合わせもまた感慨深いものがある。
それでは那須川天心vs裕樹の試合経過をレビューしていこうと思う。
那須川天心選手はサウスポー。対する裕樹選手もサウスポー。どちらも同じくサウスポー同士の戦いである。
天心選手の強みは何と言ってもそのスピードから来る出入りの速さと、どんな相手の攻撃に対しても的確に合わせることができる強烈なカウンターであろう。
対する裕樹選手の強みは打たれても打たれてもへこたれることなく前に出続けるタフさと強烈なローキック。この二つに尽きると思う。
試合の味噌はいかに天心選手の猛攻を裕樹選手が耐え忍びローキックを浴びせ、天心選手の脚にダメージを蓄積させることができるかだと思う。
試合開始直後天心選手はスーパーマンパンチ気味のストレートを繰り出す。この時点でとにかく速い、速すぎる。スピードが尋常じゃない。
このパンチに裕樹選手も対応できてなかったように見えた。
それ以降も天心選手は出鼻からどんどん攻めて無慈悲なまでの猛攻を裕樹選手に浴びせ続ける。そこに慈悲はない。
もしかしたらこのまま試合が終わってしまうのではないかというほどの天心選手の猛攻であったがそこは流石Mr.RISE、裕樹選手も一筋縄で倒れることはなく耐え忍んだ。しかしダメージが残っているのは明らかだ。明らかに足元がおぼついている。
その後も天心選手の無慈悲な猛攻は続き、裕樹選手はひたすら耐え忍ぶ展開に。
そんな乱打の中、天心選手の左ストレートが裕樹選手の顔面に直撃し、裕樹選手1回目のダウン
裕樹選手から1回目のダウンを奪った後も天心選手の猛攻は止むことはない。裕樹選手そのまま何もできず耐え忍ぶ形で1R終了のゴング
分かってはいるはずなのに天心選手の試合を見ると毎回度肝を抜かれる。
スピード、眼の良さ、打撃の正確性、どれをとっても超一流。正真正銘世界最強だ。
2R開始早々、天心選手は猛攻を始める。開始20秒程度で追いかけ気味に放った天心選手の左ストレートが裕樹選手の顔面に直撃して仰向けにぶっ倒れる裕樹選手。2回目のダウン。ダメージの蓄積が心配だ。
そのあとも天心選手の猛攻は止まず2R残り1分40秒付近で裕樹選手3回目のスタンディングダウン。
もうここまでかと思った矢先にドラマは待ち受けていた。
止まない天心選手の猛攻、裕樹選手も最後の力を振り絞らんとばかりに打ち返す。天心選手も普段なら絶対にしないノーガードで裕樹選手と打ち合う。まるで裕樹選手からのメッセージをパンチを受けることによって身体全体で受け取っているように見えた。
しかし世界最強のキックボクサー那須川天心。この男は良い意味でどんな相手に対しても一切容赦をしない男だ。もちろん今回の対戦相手裕樹選手に対してもそれは同じことだった。
その時は静かに近づいていた。
2R終了まで残り10秒を切った頃、那須川天心の左跳び膝蹴りが空気を切り裂いた。
天心選手の跳び膝蹴りは見事に裕樹選手の顔面に直撃し、裕樹選手は今試合4度目のダウンを喫した。そして立ち上がることはなかった。
あまりにも美しく、そして残酷な幕引きだった。
どんなに優秀なスポーツ選手であっても老いに勝つことはできない。必ず後続に印籠を渡さねばならぬときがくる。
こと格闘技に関してはその傾向が顕著である。
かつては最強と呼ばれ、数多くの対戦相手をリングに葬ってきた選手であろうともいつかは老いて最後には若い選手に完膚なきまでに叩きのめされ、最後はリングサイドにグローブを吊す。
格闘技の世界は残酷だ。しかしだからこそ美しいと思う。
今回の試合でも格闘技というスポーツの残酷さ。そして美しさ。陰と陽。そして裕樹選手の生き様を見れて私はとても幸せだった。
裕樹選手、長い現役生活本当にお疲れ様でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?