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【ネタバレあり】映画『チワワちゃん』感想【あゝ青春自爆】
2日続けてこんにちは。これです。
今回のnoteは映画の感想です。今回観た映画は『チワワちゃん』。岡崎京子さん原作で、発行されたのはなんと25年前。四半世紀も前の漫画を実写化するというチャレンジングな試みです。今回『チワワちゃん』を観るにあたって、DVDで『ヘルタースケルター』を見ましたが、率直に言ってかなり面白かったです。なので『チワワちゃん』にも大きな期待をして観に行きました。
では、感想を始めたいと思います。拙い文章ですがよろしくお願いいたします。
―目次― ・はじめに ・俳優さんについて ・エモさが一番 ・「青春の象徴」としての「チワワちゃん」 ・「あの時間は振り返ってみると私たちの青春の自爆テロだった」
―あらすじ― その日、東京湾バラバラ殺人事件の被害者の身元が判明した。千脇良子・20歳・看護学校生。ミキはそれが、自分の知っている“チワワちゃん”のことだとは思わなかった。 ミキがいつものミュージックバーで、仲間のヨシダ、カツオ、ナガイ、ユミらと飲んでいる時、ヨシダの新しいカノジョとして“チワワ”が現れた。以前、ヨシダのことが好きだったミキは、フクザツな気持ちで二人を見ていた。その時、バーテンダーのシマから、VIP席にいる男たちのバッグの中に、政治家に届ける600万円が入っていると教えられる。皆がザワつくなか、意を決したチワワが、あっという間にバッグを奪って、走り出した! 翌朝、昨夜の男たちが贈賄罪の疑いで逮捕されたとニュースで報じられていた。宙に浮いた大金をめでたく頂いて、バカンスに繰り出すミキたち。毎晩が豪華なパーティと、最高のお祭り騒ぎ。だが、600万円をたった3日で使い切り、皆は日常に戻っていった。そんななか、チワワだけが“パーティ”を続けていた。インスタがきっかけとなり人気モデルとなったチワワは、サカタという有名カメラマンと付き合い始めていた。やがてチワワとミキたちは住む世界も違い始めていった。 チワワを偲ぶために、仲間たちが久しぶりに集まったが、誰も最近のチワワを知らなかった。そんな中、ファッション雑誌のライターのユーコから、チワワの追悼記事の取材を受けるミキ。もっと話を聞かせてほしいと頼まれたミキは、仲間たちにあらためてチワワとの思い出を聞きに行く。しかし、ミキを待ち受けていたのは、それぞれの記憶の中の全く違うチワワだった──。 (映画『チワワちゃん』公式サイトより引用)
※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。
なおこのnoteは「チワワちゃん」を殺した犯人探しが目的ではないことを最初に断っておきます。
・はじめに
まずこの映画を観るうえで押さえておきたい最大のポイント。それはR15指定がされているということです。この映画は宣伝にもあるようにキスシーンがめちゃくちゃ多いんです。男女の濃厚なキスはもう当たり前で、女性同士でもディープキスを交わしてますからね。それもねっとりと。ここ観ててポリコレ?LGBT?的に大丈夫なの?と感じてしまうくらいです。
さらにキスシーンではとどまらず絡みの場面も多い。「チワワちゃん」は結構いろんな人としてますし、2〇はもちろん、3〇4〇まである(一応伏せ字)。さすがにモザイク処理はなされていて、そのうえ早回しですが、それでも強烈な印象を残すことには違いありません。要は結構アダルトな映画だってことです。なのでそういったものに抵抗がある方はあまり楽しめないかと。性描写を他人事で見れる私のような人間ならいいんですけどね。
・俳優さんについて
映画『チワワちゃん』の公式サイトにはこう書かれています。
<今、最も見たい>20代の超実力派俳優が集結! 友だちの死をきっかけに揺れる若者たちをエモーショナルに熱演!
この謳い文句に違わず俳優さんたちの演技は素晴らしいものでした。
まずは主演を演じた門脇麦さん。「チワワちゃん」のことを聞いて回るという主人公ミキを演じています。明るくて馬鹿っぽい「チワワちゃん」とは対照的に感情を抑えた演技が印象的でした。「チワワちゃん」が踊っているときやパーティーの時の冷ややかな目つきはたまりません。ものっそい見下してて「女って怖いな」と感じました。ヨシダに攻められているときに涙をこぼしたのもよかった。それとタバコを吸っている姿がとてもかっこよかったです。美人がタバコを吸うとギャップがあって画面が引き締まっていいですね。
次に「チワワちゃん」の彼氏・ヨシダを演じた成田凌さん。茶髪に髭を生やしてやべーやつオーラ全開です。キレたら何するか分からない怖さがありました。その一方で「違うと思った」と女の人を口説くチャラ男っぷりも持ち合わせていましたね。後半イメチェンして登場するんですが、なんか見てはいけないものを見てしまった感がありました。
そして、この二人を差し置いてこの映画で一番目立っていたのが「チワワちゃん」を演じた吉田志織さん。明るくて何も考えていない、ちょっとおバカな「チワワちゃん」というキャラクターを吹っ切れた演技で熱演。一挙手一投足が「こういう女いるよねー」っていうのを存分に表していて、「チワワちゃん」というキャラクターに熱を持たせていました。ミキに見下されるのも納得の出来です。加えて、スタイルが良くて黄色いセーターも似合ってましたしね。それにただ明るいだけじゃなく、カメラマンのサカタとの絡みではうつろ気な表情も見せるなど、「チワワちゃん」が持つ闇の部分も垣間見せどんどんと目が離せない存在になっていました。濃厚なキスシーンや濡れ場にも体を張っていて、とてもよかったと思います。この映画のMVPです。
この3人の他にも寛一郎さんの常識人かと思いきや全然そんなことない感じ、玉城ティナさんのか弱いように見せかけて計算高いところ、村上虹郎さんのいい意味での燻り方と嫉妬心、栗山千明さんの作品を邪魔しない控えめな演技、浅野忠信さんの貫禄と「好き好き大好き」の抑揚のなさなど他のキャストも軒並み好演。絶賛売り出し中の俳優さんたちの確かな演技が楽しめて、満足度は高めです。ほんと全員よかった。
・エモさが一番
この映画を観終わって最初に出てきた感想は「エモい」というものでした。『チワワちゃん』からは全てをどうエモく見せるかに心血を注いだエモさ極振りな印象を私は受けましたね。
まず、映画はミキたちがたむろするミュージックバーから始まります。暗めの空間に妖しく光る人工の灯りがのっけからエモいです。そこで流れる音楽もEDMが効果的に使われていて、妖しいムードをさらに盛り上げていますしね。
「チワワちゃん」は600万円が入ったバッグを盗み出します。そこからミキや「チワワちゃん」たちの逃走が始まるわけなんですが、ここで注目したいのがカメラワーク。もうめっさ震える。会いたいときの西野カナさんなんて目じゃないくらい震える。正直言って酔うんですけど、ここに私はリアリティを感じていいなって思いましたね。『チワワちゃん』はブレが酷かったり、ビデオカメラで撮っているという設定で画質が粗かったりとカメラワークが特徴的で、剥き出しのリアリティが表出していてエモかったです。
何とか逃げ切って600万円を手に入れたミキたちはホテルを貸し切ってパーティを開催します。このパーティーのシーンがとにかくスピーディー。これまたEDMの浮遊間のある音楽に乗せて次々とカットが入れ替わる。まるでミュージックビデオのようで、見ている人を飽きさせないようにという工夫の跡が見てとれました。ここ編集時間かかったろうなあ。プールでの水面下を映す演出も効果的に働いてましたし、エモかったです。
パーティは終わり、映画は「チワワちゃん」の実像を探るパートへと突入していきます。ここはそんなに感情が出てこず淡々と進んでいくんですが、それでもエモかった。エモさって顔をグシャグシャニして泣き叫べば出るもんじゃないんですよね。「チワワちゃん」の不透明さと、それぞれの我慢している様子が静かなエモさをにじみ出させていました。語彙が「なんかよかった」とか「たぶん~だと思う」見たいに少ないのもプラスに働いてましたね。
そして、物語も終盤になってエモさは臨界点を迎えて一気に爆発します。それまでの伏線といいますか「そういえばそうだった」みたいな展開が待ってるんですよね。ここは映画館で観てほしいなぁ。たぶんなく人もいるんじゃないかなぁ。エモいなぁ。この映画エモさの塊だなぁ。
・「青春の象徴」としての「チワワちゃん」
さて、ここからはこの映画のテーマに踏み込んでいきたいと思います。この映画は「チワワちゃん」がバラバラの遺体で発見されたことから幕を開けます。そこから「チワワちゃん」とつるんでいた仲間の一人であるミキが、他の仲間に「チワワちゃん」のことを聞いているうちに少しずつ「チワワちゃん」の実像が明らかになっていくというストーリーになります。ここで、この話は「チワワちゃん」を誰が殺したのかをミキたちが明らかにしていくというミステリーだと思う方もいらっしゃるかもしれません。でも、それは明確に違います。
そもそもミキの行動は犯人探しを目的としていません。「なんとなく知らなきゃいけない」と思っただけです。実際に「こいつなんじゃないか」と目星が付く人物は何人かいますが、それは話のメインテーマではないのです。ほら、最近『スリー・ビルボード』を巡るブログが話題になったじゃないですか。まあ私は『スリー・ビルボード』も見ていなければ、件のブログも読んでないんですが、『チワワちゃん』もそれと似たような感じだと思うんです。テーマが犯人探しとは違っているので、そこでどれだけ頭を使ってもこの映画が描きたかったことには辿り着きません。
では、この映画のテーマ、描きたかったこととは一体何なのでしょうか。私はそれを「ミキたちの成長物語」だと考えています。この映画は紛れもない青春映画なのです。
それを語るにはまずは「チワワちゃん」がミキたちにとっての「青春の象徴」だということを考えなければなりません。ミキたちは「やりたいことはいっぱいあるけどできない」とミュージックバーで燻るティーンエージャーたちでした。20歳もいっていないのに酒を飲みタバコを吸って精一杯背伸びをしています。ただ、その背伸びはどこにも届くことはありません。そこに現れたのが「チワワちゃん」です。「チワワちゃん」が600万円を盗み出したことで、彼らの青春が動き出したのです。
600万円という「やりたいことができる元手」を手に入れたミキたちは、ホテルを貸し切り盛大にパーティを開きます。大勢の人を呼び、昼夜を問わず開かれる盛大なパーティはまさに若気の至り。あんなにあった600万円は3日と立たず消えていきます。やりたいことをしていた「チワワちゃん」たちはまさにこの世の春を謳歌していました。ただ一人ミキを除いて。
パーティが終わってミキたちはなかなか会わないようになっていきます。しかし、そんななかでもミキたちを繋いでいたのは「チワワちゃん」でした。
さて、この「チワワちゃん」というキャラクター。いい意味で空っぽで中身がありません。カメラマンのサカタに「言いたいことないだろ」と指摘されるほどの空虚さです。これは青春と呼ばれるものが、どれだけ空っぽで虚しいものであるかを表していると私は考えてます。これは裏を返せば、主観的にどんな中身でも入れられるということ。「チワワちゃん」に対するそれぞれの記憶がバラバラだったことも、同じ出来事を経験していてもそれぞれの見ていた青春は違うという青春の多様性を暗示していると思います。それぞれの部屋に現れては気づかないうちに去っていったということも、青春はいつの間にか過ぎ去ってしまうもの、経験している間は気づかないということを示唆しているかのようですね。
そして、「チワワちゃん」は死にました。これは「チワワちゃん」の時間が止まったことを表していて、青春が時を止めたまま真空パックされたかのようです。この映画の最後にミキたちは「チワワちゃん」が捨てられた東京湾に集まります。それは「青春との決別」を行うため。映画の終盤、私たちはあることに気づきます。それはミキたちが未だに青春を引きずっていたということ。「過去の自分」を捨て去って、新しい自分に生まれ変わる。それはとても神聖な決意で「そうきたか」という思いとともに観ていて鳥肌が立ちました。2018年映画ベスト10の記事でも書きましたけど、私は「傷つきながらも成長していく物語」が大の好物なので、『チワワちゃん』はそんな私の嗜好にジャストフィットしました。尖ってるけど私はこの映画好きです。
・「あの時間は振り返ってみると私たちの青春の自爆テロだった」
劇中でミキはパーティーの瞬間をこう振り返っています。この台詞は意表を突かれましたし、聞いた瞬間「あ、名台詞キタコレ」と感じました。そして、この台詞は『チワワちゃん』の核心を突くものでもありました。
だって自爆テロっていずれ散るっていうことが分かっているじゃないですか。春に咲く桜の花のように散ってしまうのが分かっているから綺麗で儚いんですよね。映画の中でのミキたちは飲めや踊れやのどんちゃん騒ぎで、それは現代でいうところのパーティーピーポー。私はパリピっていう人種に嫌悪感を示す陰の者なんですけど、「いつまでも若いままではいられない」という儚さがパーティーシーンを通して流れていたのでそこまで嫌悪感を催すことなく、観ることができました。
さらに、ミキや「チワワちゃん」たちを突き動かしていたのが将来への不安。というのも『チワワちゃん』の原作が発表されたのが1994年なんですよね。そして、この年に流行した言葉が「就職氷河期」。バブルの崩壊で不景気に陥った日本では働き口が狭まり、新卒が就職するのが難しかった時代です。それはミキたちも分かっていたはず。その不安を忘れたくて、ミキたちはあんなパーティを開いたのだと思います。
そして、将来への不安はどの時代でも若者について回ることです。現代では終身雇用制度が崩壊し、競争社会が激化の一途をたどっていますよね。この目まぐるしい世界で果たして自分は生きていけるのだろうかというのは誰もが思うこと。それは25年の月日が経っても変わらずに、普遍性を保ち続けています。なので『チワワちゃん』には確かな普遍性が流れており、25年前の原作とはとても思えず、今のリアルな話として楽しむことができました。
それと、面白いなーって思ったのが「自爆テロ」はこれまたウィキペディアによると、貧しくて十分な教育を受けていない社会的弱者でも実行が容易なため「貧者のスマート爆弾」とも呼ばれているということ。ティーンエージャーって何の権限も与えられていない社会的弱者ですよね。そんな社会的弱者でも、むしろ社会的弱者だからこそ「自爆テロ」のような自らの身を顧みない行為ができるわけですよ。実際ミキたちは何も持っていなかったですしね。そうした彼女らの一発逆転のカード。それが「自爆テロ」なんです。ミキたちにはそれしか残されていなかったことを考えてこの映画を観てみると、より切実なものに映るはずです。かつての自分を重ね合わせて。
最後にまとめると、『チワワちゃん』は今ティーンエージャーでいる子供たちよりかは、20代30代の青春を過ぎた人のための映画だと思います。だって「青春の象徴」である「チワワちゃん」は誰にでもある/いるはずですから。自分の心の中の青春に「チワワちゃん」を掛け合わせてみることができるのは、大人の特権です。なので、濃厚なキスシーンやセックスシーンに耐えきれればという注意書きはつきますけど、多くの人に見てこの感覚を味わってほしいなと思います。安易にオススメは出来ない映画ですけど、それでもオススメします。映画館でどうぞ。
お読みいただきありがとうございました。