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「90年代とは何か」を知る旅

日本における1990年代とは、一体どのような時代だったのか——。

バブル経済の崩壊を皮切りに、阪神・淡路大震災、オウム真理教事件、北海道拓殖銀行や山一證券の破たんなど、社会に影を落とす出来事が次々と起きました。「失われた10年」などと揶揄されるように、90年代はネガティブなものとして捉えられることが少なくないです。

他方、明るい話題もありました。カルチャー分野では、音楽ソフトの市場規模が98年に約6075億円と過去最高額を記録したり(日本レコード協会調べ)、今なお愛され続けているアニメや漫画、テレビドラマなどが生まれたりしました。また、Jリーグの創設や、米メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースに入団した野茂英雄投手の活躍といった、スポーツの歴史を大きく変える出来事も。

どちらかといえば、暗くて、不安定な時代であったことは確かですが、その中にもさまざまな色彩があった10年間だったのではないかと思います。

あの頃、ティーンエイジャーだった

私は、この「90年代」を愛してやみません。

1979年12月生まれの私にとって、90年代の10年間は、ほぼそっくりそのままティーンエイジャー(10代)です。小中高の卒業と、大学入学はすべて90年代でした。

ただ、当時は、自分が生きている時代について、あれこれと考えを巡らせることはありませんでしたが、後々、振り返ってみると、「結局、私という人間を形作ったのは90年代だったのだ」と悟るのにそう時間はかかりませんでした。

あの頃はマスメディアに勢いがあった時代。テレビやラジオの視聴は毎日欠かすことはなかったし、雑誌は貪るように読んでいました。カセットテープやMDにJ-POPを大量に詰め込んでは、中学・高校へ通学する日々でした。煌びやかで活気のあるメディアの世界に憧れ、将来は自分もこの仕事に携わりたいと考えるようになりました。その後、98年に大学へ入り、インターネットと出会ったことで、情報発信そのものに対する意欲がますます高まりました。また、今も続く趣味や交友関係など、数多くのものが90年代を起点としています。

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青春期に対するノスタルジーと言ってしまえば、それまでかもしれません。けれども、私だけでなく、周りの同世代はもとより、前後の年代の人たちと話をしてみても、90年代(特にポップカルチャー)に対する思い入れの強さを感じることがよくあります。この時代には不思議な求心力があるようです。

そうした同志を集めて、90年代J-POP限定のカラオケ大会やDJイベントを幾度も主催したり、フジテレビの月9ドラマ「ロングバケーション」などのロケ地巡りをしたりしました。

平成最後の夏に上映された、90年代の女子高生の青春を描いた映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」は、封切り日を含めて3回、映画館で観ました。映画の舞台は「95〜97年ごろの横浜」で、私の高校時代とぴったり重なります(高校は川崎市にありましたが、横浜には休日などによく訪れました)。スクリーンに映るのは、まさに90年代の原風景だったのです。

後にリリースされたBlu-rayも事前予約で発売日に入手するなど、とにかく、この作品に熱狂、陶酔しました。 幸運なことに、伊藤芹香の女子高生時代の役を演じた山本舞香さんをインタビューする機会にも恵まれました。

一人ひとりの「90年代」を記録する

このような90年代に対する強い想いを何らかの形にしたいという考えは、随分と前からありました(何度も試行錯誤しました)。そして今回、新しい企画に辿り着きました。

あの時代を生きた人たちの証言から、90年代のリアルや本質を紐解いていくような連載コラムを始めてみようと思います。

これまで、90年代を探究するために、さまざまな文献や評論を読んだり、あるいは自分で考察したりしてきました。そうする中で、気づいたことがあります。

結局、90年代を解き明かす上で、最も大切なのは、人々がどのように生き、何を考えていたのかを知ることに尽きるのではないか、ということです。かたや、世に溢れている論評などの多くは、時代を構成していたマジョリティの素顔や肉声があまり描かれていないと感じました。

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もちろん、こうした論評にも大きな価値はありますし、論者独自の鋭い視点は尊いものです。決してそれを否定するわけではありません。ただ、私が知りたいのは、市井の人たちの、一人ひとりの90年代観です。

だから、「私の90年代」という新連載を立ち上げました。ごく普通の人たちから時代を象徴する著名人まで、できるだけ幅広い年齢層の人たちにインタビューし、当時を回想してもらいます。それを各人の90年代の“履歴書”のような形でまとめていきたいと考えています。

すでに音楽関係の方など数人に話を聞き終えています。次回の記事からは順次、彼ら、彼女らの等身大の90年代をお届けしていきます。

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記録すること自体にも大きな意義があると考えています。1990年からもう31年が経ちました。人々の記憶はどんどん風化していき、当時の情景もおぼろげになっています。この間に亡くなってしまった方もいるため、すでに出遅れていることも否めません。

一例を挙げると、90年代を代表するアーティストの一人で、私も大好きだったZARDの坂井泉水さんに話を聞こうと思っても、もうそれは叶いません。「負けないで」をはじめ、あの時代に生まれた楽曲が、今もなお多くの人たちに愛されていることを踏まえて、当時のご自身の心情などをぜひ伺ってみたかったです。それは実現しませんでしたが、以下の記事を公の場で書くことができたのは救いでした。

いつ何が起きるかわかりません。だからこそ、一刻も早く、それぞれの90年代を記録しなければという衝動に駆られました。90年代に魅せられた者として、勝手ながら、使命感のようなものも抱いています。

できる限り、多くの人たちの生きた痕跡を残しておきたい。その総和が、「90年代とは何か」という問いに対する一つの答えにもなると信じています。

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