「アイドル」という言葉に付加され続ける意味について

ロックの話

ロックの歴史を辿ると、何度も「本来のロックへ回帰しよう」という動きがあり、その都度名前が変わっていくという現象がある。ロカビリーやロックンロールを経て、ビートルズ以降は機材の進歩も相まってサイケデリックへ向かう中、本当のロックとして登場した「オルタナティブ」であったり、1970年の終わりにHR/HMに対抗する形で「パンク」が登場、その後も形骸化していくパンクを横目に「ハードコア」など脈々と続いていた。これらは名前は変えつつも「本当にロックなのは俺たちだ」という内容そのものは同じなので、本物だと示すために名前を変えていくというなんとも複雑な状況に。これらを額面通り受け取って表現だけを取り入れるのが後進国の性…という話はまた後日。

そもそも日本では「ヤバい」のように言葉自体の意味すら変化するので、同じ名前だけど意味が変わっていくことに関して特になんとも思わない(または気付かない)のかもしれない。せいぜい「元祖」をつけるにとどまっているように思う。

というように、今も昔もなんとなくで済まされてきた言葉が「アイドル」のように思う。本来の意味である「偶像」というのはなんとなく程度であり、そこからあらゆる意味が付加されて現在に至っているため、世代によって感じ方が違う反面、共通する部分もあるのではないかと考える。

そこで大まかにアイドルの変遷についてまとめ追って考えてみたい。本当に大まかにまとめる。

1.アイドル的アイドル

1960年代あたりから若くて注目されている人物、いわゆる時の人をその通り「アイドル」と呼ばれていた。もちろん歌って踊る人のみならず、ロカビリーやグループサウンズなども人気があればアイドルという扱い。またスポーツなどその他の業種でもメディアに出る機会があり注目を集めるものであれば「〇〇界のアイドル」と言える。これは今日まで続くアイドルの基本的な捉え方と言えるだろう。例)大谷翔平、羽生結弦など

2.若者タレント的アイドル

その一方で、1970年代ごろには事務所やテレビが量産する女性タレントを揶揄の意味も込めてアイドルと呼んでいた傾向があったらしく、早速同じ言葉 に別の意味が付加されてきていたようである。おそらくタレントなどは10代でのデビューが多いことで10代=未成熟という決めつけがあったり、実際にアイドルとして注目を集めていた人物と同じパッケージとして売り出されることによって実力があれば本質的なアイドルでいられるが、そうでもない場合は形式的なアイドルとなるため意味に幅がついたように思う。

3.アイドル歌手的アイドル

1980年代に入り松田聖子や中森明菜など「アイドル歌手」というパッケージがしっかりと出来上がり、いわゆるポップス歌手=アイドルというイメージがついていった。アイドルで想像するものがビジュアルとして完成、定型化したのがこのあたりのような気がする。可愛い衣装にあの髪型でマイクを持っている、のようなイラスト化できるくらいイメージが固まったのではないだろうか。

そして形さえできてしまえば見た目さえ同じであれば何でも「アイドルです」と言い張れるので、流行れば便乗され質の悪いものが流入するという資本主義的な流れがやはり存在する。この時期にもそうしたものがたくさん現れることによりアイドル=未熟な存在というイメージは変わることなく存在し続けたのだろう。

4.プロデュースアイドル

90年代以前は作詞家、作曲家、編曲家がそれぞれ活躍しており様々な組み合わせで名曲が生み出されていたが、90年代以降は「プロデューサー」という名前が大きく出ている傾向があるように思う。小室哲哉やつんく♂、秋元康、最近ではJ.Y.Parkなど。テレビの企画主導な場合も多いが、そうした有名な人物によってなんとかしてもらっている存在=未熟さとオーディションを勝ち抜いたというアイドル的凄さが共存しているとも言える。

5.女優兼アイドル

先に女優として売り出したのち、歌も歌えるなら音楽もやるパターンも多くあるが、昨今ではのちに女優として売り出す前の若手タレントの育成と宣伝を兼ねて「アイドルグループ」として売り出すケースが増えてきているように思う。2の若者タレント的アイドルを引き継いでいてある意味伝統的な形式とも言えそう。女優の卵なので実力はものすごくあるはずだが、若さゆえの未熟さも存在しているように感じる。(というかそれほど若い頃に経験させているように思う)

6.グループアイドル

若くても「SPEED」のような本格的なダンスボーカルグループに対しては「アイドル」というイメージはさほどなかったが、モーニング娘。以降は若者のグループに対して「アイドル」と指すようになっていったように思う。もちろんジャニーズのように男性グループのアイドルは存在していたが、文字通りジャニーズ以外ではDA PUMPくらいしか存在していない上、本格的であればあるほどアイドルではなくダンス&ボーカルグループというイメージになっていったように思う。

この時点で「未熟さ」が介在していなければアイドルとは呼ばれない傾向があるような気もしてきた。

その後はアイドリング!!!やAKBグループなど人数が多い=アイドルというイメージも次第に定着していったのではと思う。

8.形式的アイドル

80年代に形式が決まったアイドルではあったが、2000年代にミニモニ。のヒットにより子供向け路線が開拓され、子ども向けコンテンツへの進出により子供達が憧れる(=すぐにまねをしたくなる)存在としての「アイドル」が確立。いわゆる「可愛い衣装を着て歌う」に加え「踊る」が追加され、このような具体的なアイドルの形式がより低年齢の層まで広がり、よりイメージが確立されたように思う。

9.バラドルやグラドル

この他にもバラドルやグラドルなど歌手も兼任することで意味が拡張していき、アイドルの活動は多岐に渡りより複雑化していったという背景がある。(そう考えるとアイドルだからグラビアも、というのは割と勝手な紐付けイメージであり、その辺の活動内容は普通に選択できて良いはずである。)
この時も単純に若手というだけで「未熟」というイメージも付き纏っていたのだろう。

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もともとはファンによって「アイドル的存在」だったものが、事務所やテレビによる意図的な「若手タレント的アイドル」、プロデューサーと共に売り出す「プロデュースアイドル」などにより「未熟さ」を介在したまま今日まで辿り着いているように思う。

さらに子ども向けコンテンツへの進出を経て少女漫画のようにある時期まで絶大な影響力を持つものへと変わって行き、形式としてアイドルという存在がまとまっていったと考えられる。「人気者になりたい」という目標的な意味ではなく、現実的に「可愛い衣装を着て歌って踊りたい」という形式的な願望(そしてある程度叶えやすい)へと変化し、「アイドルになりたい」という職業的な意味としての言葉が成立するようになっていったのかもしれない。


現代アイドルの活動内容

今でも多くのアイドルは「可愛い衣装を着て踊ること」を活動の基本としているが、アイドル本来が持つ「アイドル的」になるためには人気獲得が必要不可欠と考えられる。そのため現代的なアイドルとは"自己プロデュース力"つまり"マーケティング能力"の高さで競っていると言える。

(余談だがAKBで開催されていた「総選挙」はまさにそれを具現化したものであり、当初はビジュアルやパフォーマンス力を基準としたいわゆる「魅力」を競うものであったが、次第に自己プロデュース力、いかにして票を集めるかというそれこそ本物の選挙のようにマーケティング力を競うものに変化していったように思う。例えば指原はブログを24時間で100回、次の年は24時間で200回更新しコメントでギネスを記録した人、というのが象徴的である。)

ということで現代的なアイドル活動とは「可愛いを科学することで知名度を獲得すること」に他ならない。可愛いを科学するより知名度を獲得できそうなことで獲得しようとする方が近道の場合もあり、そちらが成功するパターンも多くある。

結局は本当の意味でアイドルになるために形式的にアイドルをやるという不思議な構図、未アイドルなアイドルの時代と言えそうである。というかオーディション全盛期な今、その過程こそ「アイドル」と呼んでいるのかもしれない。

そしてK-POPやNizi Project以降は歌とダンスに回帰しているようにも思うので、今後は歌って踊ることを頑張ることで評価につながる時代が来るかもしれないし、来ないかもしれない。とりあえずハロプロは素晴らしい。

あとがき

などと考えてきたが、ライムスター宇多丸が提唱していた「魅力が実力を凌駕している存在。それをファンが応援で埋める」という言葉に集約されているのでこれにておしまい。そもそもWikipediaを眺めながら書いたので大した内容じゃありませんのであしからず。

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