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【映画一日これ一本】第2回 ホアキン・フェニックスと想像と妄想と

人生は短いのに年1000本以上公開され続ける映画。毎日新しく1本見ても生きてるうちに見終わらないのでは?と気付いたので『同じ映画は二度と見ない』というルールのもとあらゆる手段で実行していくことに。この連載では映画を見て考えてみたこととその日あたりに思っていたことについて気ままに書いていきます。

こちらはあるいるnoteの共同マガジン「エンターテイメント研究会」にて連載しています。連載単体のマガジンはこちら

ウォーク・ザ・ライン/君につづく道

映一2-1

映像や音楽は比較的時代を反映しているものだと思うし、だからこそ注目度が高い気がする。テレビなんかはほぼ鏡、見ている時はなんの違和感もなかった映像がほんの数年経つだけでなんとなく古く感じるから面白い。

映画は当時の最新技術が使われることが多く、近年だとVFXなど技術的な差異はだれが見ても明らかだと思う。一見古い作品は残念なように思われがちだが、実は「その時代にしか出せなかったもの」としての価値が出てくる場合がありファンにとっては思い入れがあるものに。音楽でもそうだが、その時代でしかあり得ない音に憧れているミュージシャンは山のようにいる。(レコードで録音された音楽をレコードで再生するのはそういった意味でも価値があるように思う。)

時代を反映するということは、流行に乗るとも言える。数多くの二番煎じが生まれ栄えては滅びていく様を俯瞰で見ると、なんだか本質から外れているような気もしてくる。しかしながら、その方が同じ時代を生きている人の心に刺さりやすいのも事実。今必要なものがあり、とてもあたり触るからだと思う。その事実から距離を置き、「タイムレス」を狙ったものは逆に今は特に必要ではなく、当たり障りのないものになる場合が多い。どちらがより遠くに届くのかは一目瞭然。もちろんただ多くの人に届ければ良いのかという話でもないが、とある範囲を超えたところに本当に必要としている人がいるとしたら?あながち無視は出来ないと思う。

「その時代にしか出せないもの」を突き詰めると、結果的に「あの時代」を表すものとして永遠に残る可能性もある。今を全力でやるだけで永遠に残るなんてなんだかコスパの良い話。こんな時代もあったねと言えるものの方が実はタイムレスさ(流行に乗らない)を狙ったものよりも本当の意味でタイムレスなのかもしれない。(もちろん普通に今を生きているので技術的にも思考的にも今からは逃れられないので、そう言った意味でも100%タイムレスというのは不可能だったりする。)

そんな今を写す映画が過去を完全に再現したとしたら?閉じ込めた技術と閉じ込められた技術が別の時代だと、いつの作品なのか解らなくなって面白い。この作品も以前見たバスキア同様「先週公開されたのか?」と錯覚してしまうような感覚になることができた。

内容的には音楽ってこれで(アコギとエレキとウッドベースだけ)で十分なんだな〜と思える50's〜60'sの音楽映画だったが、最後のプロポーズはゾッとする内容でとても怖かった。自分の思考回路はない方法。役者が同じだからなのか、ジョーカーにも通づるものがあった気がする一本。

泣き虫しょったんの奇跡

映一2-2

高校時代を終えて「どうしてもっと頑張れなかったのか?」と考えたことがあった。自ら望んで出来るだけ良い環境に入り優先的に頑張る時間はいくらでもあったはずなのに、結果が出なかったからだった。その時は「良い環境に入ることが目的」であり、そこがピーク、そこからはただこなしていただけだったように今なら思える。誰からも怒られないように練習をこなす日々、そしてまぐれでも勝ちたいという闘争心を持っていなかったことなど、挙げるとキリがない。

そもそも「どうしてもっと頑張れなかったのか?」と思ってしまっている時点で、どこかですでに糸が切れていたのかもしれない。途中で結ぶことができればまだやり直せるが、切れっぱなしのまま終わってしまった。切れた時点でやめてしまえばいいが、「良い環境」に入ってしまったせいでそれも選択肢にはなかった(やめるのはもったいない気がして)。そして高校時代は3年間、終わって欲しくないというより後腐れなく抜け出せるのでタイムリミットまで待ってしまっていた感じもある。(もちろんやめておけばよかったという話ではなく「結果を出す」という視点での話。学生生活自体は楽しく過ごせたので各方面に感謝)

あの時で頑張っていたら人生変わっていたかもしれないが、今は今でいいので後悔という話でもない。本当にやりたいことというのは、学生時代に与えられた選択肢に必ずあるものではないからだ。今だってまだ存在してないものにもの実は才能があるのかもしれないわけで、世の中に絶対はないのである。

それ自体が好きでどうせならプロへ、とは誰しもが考えることだと思う。そのうち上には上がいたり、実は他人を押しのけて勝つこと自体に興味がなかったり、「本当にやりたいこと」「そこまではやりたくない」などぼんやりと見えてくることも。そしてやめた時、本当に好きならあらゆる手段で続けるはずである。得意だからとか、誰かに期待されているからとかそんな理由で自分は動かないタイプなので、主人公の思考回路がよくわかる作品だった。

名前も知らない子役が出ている回想シーンはとても味わい深くてずっと見ていたかったし、熱中しがちな小学生時代、親友、印象に残る先生と優しい両親、普通に暮らしてたら出会わないような大人…自分にもあったはずの、記憶の中にあるはずの平和な日々を思い出すことができた。一生熱中していたいと思った一本。

ブライトバーン/恐怖の拡散者

映一2-3

妄想と想像の違いとはなんだろうと思い、辞書を引く。

【妄想】
ない事に対して病的原因からいだく、誤った判断・確信。
正しくない想念。転じて、根拠のない想像。
【想像】
実際に知覚に与えられていない物事を、心の中に思い浮かべること。

自分はわりと想像はするが、妄想はしない方だと思う。というのも妄想は自分の思い通りに、いわゆるご都合主義敵に頭の中で繰り広げるものであり、確かに考えなくもないがそれのみを考えることはない。必ず悪い場合、というか起こりうる全ての事象を想像、つまりシミュレーションとして考える場合が多い。

自分は妄想っぽいという人も、実は現実的に考えて可能なこと(=想像)と現実的に破綻していること(=妄想)の2種類いると思われる。
もしもで再現可能なものはほとんど想像に入るため、納得できるフィクションは想像で出来ていると言える。現実にあってもおかしくないということは、ほぼノンフィクション。フィクションだけどノンフィクションだと思えるか?が重要だと考える。

ではいわゆるSFやファンタジーは妄想に入るかといえば、そうでもない。実際強く心を動かされることがある。それはやはり「設定」がしっかりしているかどうかに尽きる。設定次第で現実は変わっていくように思う。この設定の世界の中ではこれが常識だと言われてしまえば、それはリアルになる。一度物語内リアルが成立してしまえば、全部入り込むことができるのだ。

結局作り話なんだけどリアルじゃないといけない。フィクションだけど「とある世界」のノンフィクションを描かないといけない。設定にこだわった映画がカルト化するのはそういった理由があるのかなとも思う。

この作品はそんな物語的リアルを作り上げた名作「スーパーマン」のもしもシリーズのような作品。正直なんでスタート時点でそんなに怒ってるのかは解らなかったが、そこからの負の連鎖とスプラッター描写はとても見応えがあった。すべての選択肢を間違えてしまうとこうなるのかも、というリアルはとてもあったので結局納得させれたのかもしれない。ジェームズ・ガン制作、心当たりある方はぜひな一本。

いまのことコラム

日テレ系で8/11に放送された「バーチャルコント」を見た。内容はモーションキャプチャーを使いコントや漫才を別人のCGに置き換えてやってみるとどうなるか?という実験的な番組。コントの設定を生かした人物や世界観に置き換えたりするパターンと、この人にやらせるとどうなるかというパターンがあった。

小道具を使わないタイプのコントの場合、世界を想像させながらやっている。見えないからこそ笑えるものがあるというか、余白をうまく使っている芸なのだとわかる。実物がないからこそ好きなように想像させることができるし、「実は〇〇でした」というオチも作ることができる。

そのタイプももちろん面白かったが、個人的には後者のこの人にやらせるとどうなるか?というパターンが興味深かった。芸人本人のキャラクターで成立しているネタからキャラクターを剥ぎ取り、他のキャラクターを被せる。するとネタとキャラクターのミスマッチさが浮き彫りになり、ネタ自体のプレーンな面白さが浮き彫りになるのだ。これはとても面白い発見だと思う。

音楽にも言えることだが、歌っている本人と歌っている曲はセットになっていて、どうしても曲だけで評価することは難しい。もちろんその辻褄が合っているからこそ素晴らしく感じるのだが、本当に良い曲というのは誰が歌っても素晴らしいと感じるものが多いと思う。(つまりどっちも素晴らしいということに…)

お笑いのネタでそんなことを考えたことはなかったが、キャラクターに頼らず(もしくは誰にでも当てはまる・最短距離で説明できる)誰がやっても面白いネタというのが誰しもが笑えるネタなのかもしれないなと思った。それをテクノロジーを介して確認することができるのなら、まだまだすごいネタが誕生するのかもしれないなとテレビを見ながら想像するのであった…(つづく)

<本日のおすすめ>
「バーチャルコント」
Tver (8月18日(火) 23:58 終了予定)/ Hulu

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