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それでも地球は曲がっている【毎週ショートショートnote】

 ヨコハマのオフィス街を環奈は颯爽と歩く。
 関内にある支社に赤坂から出張でやってきた。赤坂の高層ビルから電車に乗り、関内の碁盤の目のような人工的な通りを抜けて、少し古ぼけた小さなビルに入る。
「最近、横浜支社の業績が悪いから視察に行ってきてくれ」
 上司の命で横浜まで来てみれば、年季の入ったビルに所々掃除も行き届かずホコリやゴミが溜まっている。
 目に留まる隅にたまった砂埃、薄汚れてホコリが付いた壁。
“お母さん、かんなおそうじしてきれいになったの!”
“べつにそんなところしなくてよかったのに。それよりも夕飯作ってくれる?”
 
「掃除の持ち回りは?」
 支社長への挨拶も早々に、環奈は厳しい口調で問う。支社長は「へ?掃除?」と素っ頓狂な声を上げる。「清潔な場所は社員のモチベーションや顧客への印象も良くなります。何より快いですし」なんなら、数時間私がやって帰ります。と立ち上がる環奈を、やりますやりますと支社長が制し、お茶を持ってきた女性社員に何やら指示を飛ばした。
 環奈はその様子を見て、幼少期の掃除機をかける自分が顔を出す。週末、母に言われてありとあらゆる家事をした。平日溜まった汚れが掃除機に吸われてピカピカになるのが心地よかった。

 くたくたになって家に帰ると、先に帰った夫が5歳と3歳の娘たちを連れて先に帰宅していた。
「ママ、おかえり!」
「おかえりー!」
 待ち構えたように出迎える娘に、力なく「ただいま…」と応えた。
 夫が買って帰った出来合いの弁当をチンした匂いが漂う。
 靴を脱いで居間に目を向ければ、散らかり放題の我が家が顔を出した。
「おかえりー?」
 声だけで夫が迎える。
「ただいま………ただいま?おかえり?」
 はぁ…とため息を付いて足元を見る。
 ヒールで足は浮腫んで痛いし、鞄は重くて床に落とす。

 スカーーン!と、昼に投げた球が側頭部に当たる音がする。
“致し方ない致し方ない…”
 そう自分に呟きながら、環奈はとりあえず娘たちの脱いだ靴下をひとつずつ拾い上げて、物が散乱した廊下を洗面所へと向かって蛇行した。


おわり



(825文字)
文字オーバーでした…😖



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