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寿司日乗737〜743

2024年12月2日(月)晴れ

8時起床、掃除機をかけている途中赤染先生の事が頭に浮かぶ。赤染先生(当時50歳)は中学2、3年の時分、社会の担当だった。3年生になる頃、黒板に書かれる文字がみみず文字になり、いよいよ読めなくなった。達筆とは違う。よく見ると先生の手は震えていた。アル中なんだと聞いた。鼠色、ヨレた背広からは始終酒の匂いがしていた。寡黙で猫背の先生は友人達にはどうでもいいと思われていた。嫌われる方がまだいい。しかし私は何故か赤染先生が気になっていた。黒板の字が読めない故、授業にならない。学期後半は自習になった。ある日の下校時間、渡り廊下で赤染先生とすれ違った。その日初めて赤染先生の顔をまじまじと見た。白髪、伸びた前髪の隙間に隠れる眼光と目が合った途端、「お酒はほどほどがいいと思います」と口走っていた。赤染先生は「見汐んとこの店じゃ飲まんよ」と言った。母の営むスナックのことを言ったのだろう。赤染先生はそれ以降学校にこなかった。憤りと諦めを常に身体全身に纏った覇気のない人だったが周りの先生よりも人生に対して正直な人に感じたことを唐突に思い出す、意味もなく。記憶の飛躍が著しい師走。

2024年12月3日(火)晴れ

昨晩深夜にyahooニュースをザッピングしていたら何処かの国で未知の病気が見つかり、症状は発熱後に皮膚や目、耳から流血が止まらない、苦しんで最後は亡くなるというものを見かけた。今朝、もう一度確認しようと探すもない。ないってなに。フェイクニュースなのか。なんだったんだろうかと気になるも仕方なし、恐ろしい。
夕方、友人の誕生日前祝いと忘年会を兼ねて高円寺、行きたかった店が臨時休業。東高円寺まで移動する最中に通る好きな道順があり、歩く。散歩でも好きな道順があるが、道ではなく、筋(すじ)の良さというものがある、それが見つかるとただ歩くことが楽しくなる。本日早めの晩餐。芯の通った人間、一貫性のある資質というものに昔から強い憧れがある、友人はそういう気質があり羨ましいばかり。人間にも すじ があって、自分を貫く為の歩き方が明確な人程言葉数が少ないイメージ。私のようなお喋り人間からすると羨望のひと。そんな2人に共通しているもの。食事中、誤嚥を起こし咳き込み涙目になることくらいか。
少し早いけれど、お誕生日おめでとう。いつもありがとう。

2024年12月4日(水)晴れ

日付が変わり深夜のニュースで韓国の尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣言したと知り心底身震いが起きて目が覚めた。隣国の事とはいえど日本だって明日は我が身。非常戒厳解除までの約6時間、鳩尾を摩りながら起きていたものの寝落ち。例えば自分達の手で勝ち取った自負がある民主主義と先人達の苦労の末に享受された民主制度、主義と制度は違うと思う私。どちらも同じ民主であれど中身の強度の差異などを平らな知見でひとり布団の中で浅ーく延々考え二度寝。
昼、雑務など済ませて夜、四谷三丁目アーバン。
来年1月末で閉店となるものの、今夜も満員御礼。お客さんで賑わう店内、楽しく酒が飲めること、楽しい酒を飲めること。どちらも等しくずっと続いていける世の中であって欲しい。そんなこと……とお思いになるなかれ。暮らしの端々に陽が射さなくなった時既に遅し。街中の色々をよく見ていたらわかること、大いにあると思います。
店がはねて麻婆豆腐丼を食べる深夜。「こんな時間!もう帰れないでしょーう!」元気いっぱい女将さんの笑顔に労われました。

2024年12月5日(木)晴れ

朝、ニュースをザッピング。アフリカのコンゴ(旧ザイール)南西部で、正体不明の病気により1か月余りで少なくとも27人が死亡したという記事。あれ、これは……数日前に消えた似たような記事と同じやつかしら……数ヶ月後、疫病のように流行り出したらと思うと不安になるが私がどうこうできる範囲のことではないと思うも免疫!上がれ!と、突然スクワットなどをやるが気休めにしかならない。昼、SNSを開くと某氏の発言が議論されていた。今の自分を形成している(それで飯を食っている)ものへの愛と、その愛を計る条件(他者への踏み絵的なもの)が万引きしたか否かというのは個人的な音楽への探究心とは別、ただ手前の素行が悪いという話を好きなら何してもいいと一括するのは同時代、同世代の同業者に対しても失礼な物言いだなと思うなどする。昼飯を済ませて読書、大竹伸朗の著書『既にそこにあるもの』(ちくま文庫)の中で山塚アイが「マン置き」をやっていた話をしているのを思い出し再読、寝落ち。のち、作業。リアレンジしたデモ曲が捗らず2時間ばかりでやめて飲酒。風邪が流行っている……免疫!徐にスクワット、軽薄でも継続は力なり。

2024年12月6日(金)晴れ

私はこれから殺されるとわかり、いやだな死にたくないなと思うもコメカミを拳銃で撃たれて倒れたのだが、痛くないし死んではいない。頭を触ってたしかめる。鏡に映る顔はゾンビのよう。死んだふりを続け暫く経ち外国人の女性に助けを求めるが助けてくれないので死んだふりを続ける夢を見て「マージで撃たれるってわかった時怖かった!」と口にして起きた。
昼飯を食べる気も起こらないが今日1日は粘り強く在りたいので力うどんを食べる。夕刻まで作業。途中、久しぶりにLINDA HOYLE/Pieces Of Meを聴きたくなり聴く。ニュークリアスのメンバーによるアレンジ、そしてpete kingのプロデュース全部最高だ。
夜、四ツ谷三丁目アーバンは忘年会で貸し切り。臼井さん(ママ)のご飯が出る日なのでとても嬉しい。店がはねて臼井さんに寿司をご馳走になる。寿司をつまみながら熱燗をのむ。ゆっくり会話をしながらカラスミなど摘む。何も考えずただ話をする。いっときの時間がたおやかであればあるほど幸福。朝に見た夢も相殺、ぐっすり眠れることが最近の幸福度ベスト1です。

2024年12月7日(土)晴れのち小雨

午前中、猫の動画を見続けては微笑む。昼、ヘアサロン。8年程担当してもらっているFさんが家の床屋を手伝いつつ海外で店をやるか考え準備期間だという。Fさんに髪を切ってもらえなくなることは寂しいが何処でやろとうときっと沢山のお客さんがつく人だろうなと思う。初めて来店した日、雑誌お持ちしますと告げられ、Fさんは私が良く読む雑誌を数冊手渡してくれた。毎月読んでいるので驚いた。「あの、どうしてこれなんですか?」「あ、違うのがいいですか?」「いえ、いつも読む物なので驚いて」「iPhoneの裏のステッカーとか今着てらっしゃるLOOKの服とか私も好きで。カルチャー誌がいいかなと思って」「オレンジページは……」「爪の先、チラと見たらネイルなさってないし、爪も切ってあって……お仕事で料理をされるのかなと思いました」あぁ、この人にこれからお願いしようと決めるきっかけになる出来事だった。(当時、飲食店で調理を担っていた)細部まで観察することができるFさんは毎回希望通りの髪型にしてくれた。毎度短い会話の中でも共感しかなく、Fさんの仕事っぷりが気持ちいい。仕事は自分の在り方次第で楽しくできるものだと思わせてくたひと。

2024年12月8日(日)晴れ

昼過ぎ、突然湧き上がるやる気に急かされ甲州街道を散歩して買い出し。日曜日の大型スーパーは混み具合がアミューズメントパークに等しく圧倒されるものの師走のアメ横に比べれば屁でもない。
帰宅後、鍋で遅い昼飯。晩酌の為に購入した苺と日本酒を楽しみに深夜まで作業。自らぶら下げた人参でも疾走できるくらい元気のある1日。明日もそうあってほしい。

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