見出し画像

証憑の電子化について考える

信憑性確保の観点でいったら、生データ(明細)をそのまま経理情報として取込み、改変不可能にした方が信憑性が高い。最近のSaas系会計ソフトはそういった設計が前提となっているように見える。

「お品代」として内容をまとめて合計金額のみの紙の領収書より、鉛筆1本単位の明細データがそのまま経理データとして取り込まれ、改変不可能な形で記録されている方がより透明度が高く、信憑性も確保されていると言える。

ここで重要なのは、手入力ではこの会計経理は不可能であるということ。データ処理による経理と記帳の自動化が必須となる。仕分けを行うというのは、簿記等の勉強、訓練方法としては有効だが、もはや実務上はほとんど必要ない。複雑な仕分け以外はデータ処理で行い、人の手を介さない仕組み、流れを作った方が信憑性が高い会計となる。ここに、証憑という、その会計処理が適正であることを証明するための「対をなすもの」をどのように紐づけていくかという事が、証憑の本質的な役割となる。

個別の取引を証明する「対をなすもの」に加え、BS残高を証明する「対をなすもの」の2軸にて、会計の適正性を証明していくというのが基本的な考え方であろう。

現状の電子帳簿保存法等、税務上の要件や適正性を満たすことはもちろん大事だが、それ以前の本質的な証憑の役割について考えることのほうが大事である。さらに言えば、証憑の先にある、その取引に至るまでの企業内の決定過程、決断過程の紐づけ、すなわちワークフローも、広義の意味で証憑であるといえる。この企業内の意志決定過程の会計の紐づけも、同時に大事となる。個別証憑と、それが会計データとして発生する前の意志決定過程の紐づけ、納品事実等の発生事実の会計の紐づけをどのように実現するかということも、証憑の電子化に紐づく議論といえる。

したがって、証憑の電子化議論というのは、単なる税務上の要件を満たせば紙の証憑を廃棄できるといった話では毛頭なく、最終的に会計データとして集約される会社のすべての取引や意思決定過程、経済事実の把握をどのように把握し、適正性を証明していくかという話が主軸である。

さらに言えば、現在予定されている電子帳簿保存法の改正によりより使いやすい制度となる事はもちろん大歓迎であるが、そもそも実務家としてはその細かな内容は本質的な議論にはなり得ない。なぜならば、データ処理が前提となっていく世界の中で、それら税務上の要件等は、「自然と」Saas等のサービスを用いていく中で、「当然に」満たされるはずであるからである。そういった意味では、Saas等の外部サービスの利活用は、それら要件を理解し、自社システムに実装していくという能力を持ちえない中小中堅企業にとっては、疑う余地なく、一択の選択肢であると考える。仮にそれら機能を自社内に持ちえたとしても、より自社の意味、価値を高めてくれるところに投資を回した方がよい。電子帳簿保存法の改正は、もちろん税務専門家としては理解しなければならないが、これを現場に実装する実務家の視点でいえば、その改正等のシステム実装については、100%Saasベンダーに依存すべきと考える。

さて、データ処理が会計の前提となり、様々な業務の中で自然に会計が形成される、すべての取引が繋がった世界においては、証憑の問題は基本的には発生しなくなるのではないか。なぜなら、すべての取引データが改変不可能となり、明細レベルで記録される世界では、検証可能性が明細レベルで担保されるからである。となれば、個別の会計データの「対をなすもの」は、各取引先との相互関係の中で証明されるものとなり、本質的には帳簿同士の整合性確認のような形で、つまり、P2Pで証明されるようになるはずである。販売した側のデータと、支払した側のデータは当然「対をなすもの」であるため、改変の余地はない。少し未来感のある話となってしまうが、おそらくそんな世界が5年以内には実現しているというのが私の感覚値となる。

さらに踏み込んで考えると、将来的には取引データに場所情報や利用者個人の情報等、現在の会計データとしては取り扱わないデータも付与されることが予想される。そうなると、会計帳簿が経営を考える上で役立つ射程が、この5年~10年でこれまでとは考えられないものになっていくことを期待している。DXという言葉が流行り言葉になっているが、会計の射程距離が変わること、これこそがトランスフォーメーションと呼ぶに相応しい変化なのではないかと思う。10年後の会計は、いまとは全く違うものに変容していくだろう。

さて、ここまで抽象度の高い話をしてきたが、以下からは解像度を少し上げて考えていきたい。

いきなり個別の話で恐縮ではあるが、スキャンデータの保存は、ダサイ。個人的には前々からずっと思ってきた。わざわざ紙のものをスキャンして電子化するというのは、何とも言えず、ダサイ。証憑のスキャンというのは、個人的には一つ飛ばしの技術であると考えている。非効率なものを非効率のまま電子化するという、一番やってはいけない愚かさを感じる。(とはいえ、後述の通り、当面は意味があるので、紙の証憑のスキャン化は現状は意味がある。問題はスキャン化、すなわち電子化の方法論となる。)

わざわざひと手間かける必要がない。スキャンデータ保存するくらいなら、紙の証憑を保存するほうがよほど良い。とはいえ、会計データに証憑が紐づいている事はとても意味がある。なので結論としてはスキャンはやったほうがよい。

わざわざやる必要がないのは、税務要件等を満たすための不正行為を抑止するための担保措置等であって、証憑をスキャンして会計データに紐づけておく事は、一定の価値がある。例えば20万円の請求書があり、それが1つ10万円未満の消耗品の集まりであることを確認するのに、会計仕分けに証憑のスキャンデータが紐づいていたら、外部税理士や監査人がチェック、検証する際にかなり効率的であり、経営者が中身を確認する際の解像度もあがる。ここで言いたいのは、税務要件を満たすためにわざわざ追加的な措置を施す必要はないということ。スキャンして会計データに紐づけたら、あとは丁寧に保管して二度と出さなければよい。紙で保存しておいた方が、トータルの事務工数は少ないと感じている。

一つ飛ばしの技術であるという意味は、先に述べたように、いずれ請求書や領収書が電子化される、そもそもP2Pで取引内容の適正性が証明される事が目に見えているからである。インボイスが始まると同時に義務化される見込みである請求書の電子化は、紙を一掃する契機となると期待している。電子領収書の実証実験もすでに始まっており、これも時間の問題で電子化する。そうすると、加速度的に紙の証憑は無くなることになり、おそらく(個人的な予測の範囲)、電子請求書や、Web発注の取引自体に改変不可能な会計上必要なデータが埋め込まれた状態で会計システムに取り込まれることになる。そしてP2Pで相対する取引どうしが、それぞれの取引を証明するような世界に必ずなる。このようなちょっと先の未来感から、現状の税法に規定される担保措置については根本的に不要になる事が考えられる。一部紙の証憑が残ったとしても、ごくわずかであれば、前述の通り「スキャンはすれど、紙は保存する」が実務的な正解になると考える。

とはいえ、これは少しだけ先の未来の話。当面は業務の工夫で解決することが望ましい。データで処理する、業務の中で自然に会計帳簿が形成される、という世界観から逆算すると、スキャン、すなわち証憑の電子化は当面必要となる経理機能として認識した方が良い。必要機能として認識すれば、やり方はおのずと決まる。具体的には、会社に集まる証憑を集中的に一元管理し、大元でスキャンデータを生成し、各部署に配信する流れを作ることがよいのではないかと考えている。一度スキャンして必要部署に「配信」が完了した証憑原紙は、他部署には「決して」まわさず、即座に箱詰めして倉庫に直行させ紛失を防ぐ。このように、証憑が企業に入ってくる「入口」でデータ化し、証憑原紙とワークフローや会計に必要なデータを別々の流れの中で企業内に流通させることが重要である。会計に必要なデータを、証憑原紙から「幽体離脱」させ、ご本体である原紙そのものは即座に墓場に埋めてしまうというのが私のイメージだ。これら物理証憑のデータ化を担うのは、郵送物を一元管理できる総務部が最適と考える。総務部に求められるのは、ワークフロー含めて、企業内をめぐるデータの流れを整えコントロールすることだ。

ところで、物理的な証憑は郵送先の管理により集める事ができ、実は管理が楽ともいえる。一番厄介なのは、各担当者の個別メール、個別アカウントに眠る電子的な証憑類ともいえる。これらを解決するには、購買承認フローの整理や、会社としてのアカウントの一元管理等、証憑が発生する可能性のある業務を把握し、個人のアカウント等の発生を許さない事が肝要であろう。このあたりは証憑が電子化された後も課題になりうるポイントで、中小企業の業務DXを考える上でも、制御していかなければならない重要ポイントとなる。

一番厄介なのは、そもそも電子的にしか存在しない証憑類(原紙がなく、そもそもデータでしか存在しない証憑)は、印刷するのではなく、電子のまま保管が法的に求められる流れである。したがって、例えばAmazonの購買履歴や明細ダウンロード等、販売する側のサービスの選択も、証憑の保存要件を満たせるサービスを選択していかなければならない。このあたりの選択眼も、総務に求められる役割となる。

すべての企業内の取引をデータの流れとして考えることが重要であり、総務部が担うべき真の役割は、OMOを前提とした新たな社内データ流通の設計とその実現である。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?