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鳩サブレいすわる

 手術中、網膜には鳩サブレが飛んでいた。
残像、ってやつなんかな。なんせ、鳩サブレの形をした影が幾重にも重なって右から左へと移動していくのだ。
 色はピンクから黄色、緑と単色の鮮やかなサブレがチラチラといて、「なんじゃ、こりゃおもろいな」なんて目をつむりながらその風景を眺めていた。
 カテーテル手術は局所麻酔だから、なんか中途半端に声が聞こえたり意識があったりする。ので、半分トリップしたサイケな画像が網膜や脳に去来するのだ。
 で、あれは造影剤の影響だろうか? 画像を撮影するときのフラッシュが網膜の血管にパルスとなってチリチリってくる感覚は、まるでSF映画を見ているようだった。 や、ホントに自分の意思とは関係なく口蓋から唾液が流れ出てきたり、オシッコちびっちゃったりする感覚って、自分の肉体が自分であって自分じゃない動き方をしていて奇妙だ。
 その真っ白な世界でのっぺりとした機械が顔に近づいたり遠ざかったりしながら何か作業を行なっている様子は、キューブリック映画チックには違いない。
 で、手術後もその鳩サブレ型の影は、実風景と重なり合いながら病室までついてきた。その時は、もう色彩は暗っぽい紫色みたいに変化はしていた。
 なんとなくそれはずーっと目に映ってはいたのだけれど、意識的には身体の痛みやら何やらで遠のいていて「まっ、いっか」的な脇役のポジションで退院まで続く。
 ところが、退院後ふと落ち着いてみたら、鳩サブレ、まだ右眼の内側に居残っていた。で、左目にはもういないんだけど、なんだか右目にはそいつが残っていてちと視界に邪魔になってきた。なんかボヤッと影が残りっぱなしなんですよね。
 左右の目の見え方が変わったので、術後経過を聞いてきたカワバタ先生に相談したらすぐ隣の棟の眼科の先生に連絡してくれてそのまま診察を受けることになった。
 や、総合病院てこういう連携の仕方ってスゴいよな、と感心しつつ、若い女医先生に点眼してもらったりまたもやいろいろ光をあてられて撮影してもらった。
 どうもなんだか右眼の方だけ眼底が白っぽく写っていた。
 視力は落ちていなくて白内障でもないらしく、ひょっとしたら見えている影は、血しょうが目の方の網膜に飛んぢゃって詰まったのかも?とのこと。
 ま、知らんがな。
 とりあえず両目は見えている。ちと不便だが半分ボヤけながら残りの景色でも見ることにするか。
 最近は、少し慣れてきて影を避けながら焦点を合わせるよう工夫している。
 ま、人体も恒常性とはいいながらそりゃいろいろ複雑怪奇にあるよねw
 
 
 

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